2010年3月26日 ~北海道家族旅行記①~

この3月に、下の子が幼稚園を卒園した。
ただし、学籍上は3月いっぱいは幼稚園児、すなわち電車賃がタダである。
そこで、学校や幼稚園が春休みになる3月末に、家族でどこかへ旅行に行きたいなと思った次第。
夫婦でいろいろ検討して決めた行き先が、北海道であった。全国各地でブルートレインが廃止されている昨今、まだ現役で頑張っている北斗星に乗ってみようと思ったのだ。初日は車中泊、二日目のお昼近くに札幌に着いてからは市内観光に時間を費やし、三日目の夕方に飛行機で帰るという日程。私は二度ほど訪れたことがあるが子供はもちろんのこと妻にとっても初体験の北海道であることも、決断を後押しした。
旅行代理店を訪れたのが、3月上旬のこと。寝台ぐらい取れるだろうと高をくくっていたのだが、予想に反して禁煙ではない寝台しか空きがなかったため、泣く泣く断念。代わりに勧められた札幌及び旭川市旭山動物園を訪れる一泊二日の飛行機ツアーを予約した。旭山動物園は全く念頭になかったが、行動展示で今話題を集めている動物園なだけに、子供受けはするだろうと思う。
日程的には、初日の朝に仙台空港を発ち、新千歳空港に着いた後は電車で一気に旭川へ。お昼から夕方にかけて旭山動物園を堪能し、再び電車で札幌にトンボ返りして宿泊。二日目は札幌市内を自由に観光して夕方の便で仙台空港に戻ることになる。かなりハードな行程のような気がする。旭川までたどり着いたら子供達が疲れ切っていたなんて可能性もあるかもしれない。
が、その反面、二日目に行動の制約が少なかったのは有難いことであった。疲労度を考慮すれば、あれもこれもと行きたい場所を詰め込まず、一、二ヶ所に絞った方がいいように思う。これもいろいろ検討した結果、地下鉄東西線の西の終点・宮の沢にある白い恋人パークを訪れることにした。あとは、お昼に札幌ラーメンでも食べれば、何とか観光旅行らしい恰好はつくだろう。
また、初日の夕食も、どれにしようか迷いに迷った部分。定番の札幌ラーメンに、最近札幌名物として定着しつつあるスープカレー。いずれも晩餐として食べるには「軽い」感じがしたのだ。夫婦で話しても結論が出なかったので、結局、札幌に単身赴任している旧友の助けを求めることになり、彼が勧めるジンギスカンの店で食べることに落ち着いた。また、その流れで、夕食は旧友と私達家族が席を共にするという、面白い形になってしまった。なお、子供達にとって、私の友人と直接対面するのは初めてのことである。「お父さんにおともだちっていたの?」という素朴な疑問を受けてしまった。
 
そんな感じで準備を進めていき、いよいよ3月26日。出発の朝が来た。
夜明け前の午前5時。目覚まし時計の音がけたたましく鳴る。
慣れない早起きに子供達がグズりだすかなと思っていたが、予想に反して、目覚ましと同時にパッと目を覚ました。心得たものである。
軽く朝食を済ませた後、めいめいがカバンとリュックを担いで桑折駅へ。6時29分発の仙台行普通列車へと乗り込む。実は私が通勤でいつも利用している列車なのだが、利用目的が違うと車窓の風景も変わって見えるから面白い。子供達も初めての北海道に興奮しているようだ。
7時21分着の館腰で下車。ここから仙台空港まではタクシーを利用する。せめて名取で下車して仙台空港アクセス鉄道を利用したいと思ったのだが、飛行機の出発時間が8時15分であるため時間の都合で断念した次第。仙台空港アクセス鉄道は仙台駅と仙台空港との連絡こそ便利なものの、名取以南からのアクセスでは時折こういった事態を招いてしまう。
危機的な状況が続いている全国の地方空港の中でも仙台空港は健闘している方だとは思うが、利用可能地域をまんべんなくフォローすることは忘れないで欲しいものだ。仙台空港以南の宮城県域、そして福島県の信達、相馬地方。合わせれば人口80万人近くもあり、ちょっとした県の人口に匹敵する。また、福島県の側も、先行きが明るいとは到底思えない福島空港の存続に血道を上げるのではなく、県民がより良いサービスを受けられるのであれば、福島空港を捨ててでも仙台、新潟両空港への利用促進を検討しても良いのではなかろうかと思う。
空港へは、15分ほどで到着。出発まで30分以上の余裕があり、搭乗手続には十分間に合う時刻だ。しかし、我々夫婦が飛行機に搭乗するのは、9年前の新婚旅行で九州に行って以来のこと。マゴつくことしきりで焦ること焦ること。それでも何とか手続を済ませ、飛行機の中に乗り込んだ時にはホッとした次第。
飛行機は定刻通りに出発した。グングン高度を上げる飛行機。天候は晴れ。だから眼下の景色が良く見える。「ちずの上にいるみたい!」と子供は大喜びである。
確かに、地図の上を飛んでいるようではあった。仙台空港を発った後はしばらく太平洋上を飛ぶが、石巻市の市街地付近で再び本州上空に出ると、あとは北上川の東岸に沿って北上するというルート。花巻空港の滑走路や奥州市盛岡市の市街地も、ハッキリと眺めることができた。
が、どうもおかしい。仙台から新千歳まで飛んだのは私にとって13年ぶり二度目の経験であるが、前回はもう少し三陸海岸に近いというか、人口密度が疎な地域の上空を飛んでいたように思うのだ。でも、今乗っている飛行機は、市街地の上空を大胆に通過している。そういえば、エア・ドゥの便だったっけ。割安な航空券を供している反面、安全面でのフォローは大丈夫なのかなと若干心配になる。
その心配は、むつ市の上空を横切り、着陸態勢に入った時に露見した。上の子が「耳がいたい」と叫びだしたのだ。相当な痛みであったらしく、泣きそうな顔をしていた。親としては心配になるが所詮素人。「大丈夫か」「もう少しで着くから頑張って」と月並みな声をかけるのが関の山であった。
そんな耳の痛みははまったく関知しないよとばかりに、飛行機は苫小牧市の市街地を低空で大胆に通過し、新千歳空港に到着。飛行時間は約1時間であった。
新千歳空港からは乗り物を飛行機から電車へと変え、10時19分発の快速エアポート103号に乗車する。なんとこの列車は、札幌でスーパーカムイ15号と名前を変えて旭川へと直行するすぐれもの。旭川着はなんと12時20分。桑折駅から6時間で旭川駅に着いてしまうとは驚きだ。耳を痛めてまで飛行機を利用した甲斐があったと言えばあったとは思う。
しかし、この強行スケジュールの陰で、昼食のタイミングに頭を抱えることになってしまった。当初は旭川市内でしっかり食べたいなという希望を持っていたが、そんなことをしてしまうと旭山動物園での貴重な見学時間が削られてしまう。従って、心ならずも車中食にならざるを得ない。列車に乗り込む前に、新千歳空港の広々としたターミナルの二階へと行き、サンドウィッチや手巻き寿司、飲み物を買い込んだ。なお、新千歳空港のホームは地下にある。空港に着いたそばから上へ下への大移動。北海道の広大さ(?)を妙な所で思い知る。
列車は定刻通りに発車。この時点には上の子の耳の痛みは回復していたようだが、代わりに多少疲れが出たのか、発車直後に寝入ってしまった。一方下の子はというと、こちらは元気いっぱいで、さっき買ったばかりのサンドウィッチを頬張ったりジュースを飲んだりと忙しい。遠くに嫁に行ってもきっとこの調子でしっかりやってくれるんだろうなと、妙な部分で感心した。
ところが、列車が札幌に着く頃になると兄妹の形勢が逆転。下の子は窓際に頭をもたれさせ、隣に座っていた妻の膝の上に足を投げ出すという豪快な姿勢で寝入ってしまい、代わりに上の子が目を覚ます。体調が回復したせいか、すごぶる元気が良い。特急となった列車が車内放送で停車駅を案内した際にはこんな質問も飛び出した。
「ねえ、この電車のとまる駅は、砂川、滝川、深川、旭川って、どうして『川』のつく駅が多いの?」「岩見沢にもとまるけど、どうして『川』がつかないで『沢』になるの?」
言われてみれば「川」のつく駅が多い。その間にある「川」のつかない駅をいくつも通過しているからこれだけ揃ったのは偶然の一致としか言えないし、それをそのまま答えていいのかどうかは悩み所。結局、「どうしてだろうね」と言葉を濁すしかなかった。
上の子にはもう一つ、答えようがない疑問があって、旭山動物園に行くと決まった時、「仙台の動物園も八木山動物公園だし、どうして動物園の名前には『山』がつくのが多いの?」なんて口にしていた。これもまた、旭山や八木山に限らず、札幌の円山、秋田の大森山、横浜の野毛山、長野の城山と茶臼山と、実は「山」率が高かったりするのである。訪れる人にとっても動物の居住環境にとっても郊外の里山に動物園があった方がロケーション的にベターだし、旭山も八木山もそうだが、こうした里山に動物園が設けられたから「山」のつく名前になったのだろうとは思う。が、小学校低学年の上の子にこんなことをわかりやすく説明するのは至難の業である。
そんなやり取りをしている間にも、列車は旭川へと北上を続けている。札幌-旭川間の136.8キロを1時間20分で走り抜けるから表定速度は時速100キロを超えている。大した速度である。が、岩見沢を過ぎたあたりから、それまで晴れていた空が曇りだし、やがて雪景色へと変わっていった。高速で通過する列車が雪を巻き上げていくからか、外は地吹雪状態で景色などまったく見えやしない。屋外を歩かざるを得ない旭山動物園の園内を無事に回れるかどうか、ちょっと心配になる。そこで、旭川が近付いた時、持参してきたスキーウェアを子供達に着せた。
定刻12時20分に旭川駅に到着。先述の通り旭山動物園は郊外にあるので、駅前から出ているバスに乗り換える必要がある。コインロッカーに大荷物を放り込んだ我々は、バス乗り場へと急いだ。旭山動物園へのバスは普通の路線バスかと想像していたが、意外にもノンストップの特急バスであった。我々のような観光客にとってはありがたいが、間違って乗ってしまう一般市民の方もいるようで、「え!?このバスノンストップなんですか?」と運転手に詰め寄るお客さんの姿も見られた。
バスには30分以上は揺られたろうか。市街地を抜け、残雪が深いため田んぼだか畑だか判別がつかない農地が広がる一帯をしばらく走ると、ようやく旭山動物園に着く。特急に乗っていた時に比べると降雪はずいぶん少なくなっていたが、風が強い。やはりスキーウェアを着せていって正解であった。
旭山動物園の売りといえば行動展示だが、その中でも特に人気なのが、泳ぐ姿を真下から覗くことができるペンギン、円柱形の水槽を上へ下へと自由に泳ぎ回るアザラシ、そしてシールズアイと呼ばれるカプセル状の覗き窓から襲われるアザラシの心境を味わえる(?)ホッキョクグマの3種類。これらは逃さず見ようかと思っていたのだが、いずれもかなりの人だかりなのには驚いた。見ると、旅行会社のワッペンを付けている人が多い。クラブツーリズム読売旅行、阪急交通社… シールズアイを目指す行列では関西弁が飛び交っており、旭川にいる気すらしなかった。
動物を見るのも写真撮影するのにも一苦労する始末だったが、ここで活躍したのは上の子。人混みをかき分けて水槽の前に出ては、DSのカメラ機能で次々と写真を写していた。周囲を見渡した限りでは、携帯で撮影していた人は数多くいたが、DSで撮影していたのは上の子だけ。特急の中での質問といい、言動が突飛というか、独特だ。
時間が許す限り動物園見学をしたかったのだが、上記の3種類を見るのにかなりの時間を費やしたため、閉園時刻の3時半が迫ってきてしまった。あとはエゾシカやタンチョウヅルなど北海道独特の動物を何種類か見、アクセサリーなどのお土産を買うにとどまった次第。ここで小腹がすいたので、入口付近にある食堂でラーメンを食べることにした。動物園の食堂で美味いものを食べた記憶がないので大して期待していなかったが、予想に反して結構美味かった。食事のレベルの高さも、ひょっとしたら旭山動物園の人気の秘訣の一つかも知れないなと思った。