2010年3月27日 ~北海道家族旅行記③~

午前5時に目が覚めた。
昨日セッティングした目覚ましのアラームを解除していなかったせいだ。
頭が痛い。飲み過ぎたせいだ。
出発前に「27日の朝は早く起きて大通公園まで散歩に行こうかな」と軽口を叩いていたのだが、とてもじゃないが無理である。
どうやってベッドに入ったのかも、全く覚えていない。髪も身体も触ってみてもベトつきがないところを見ると、最低でもシャワーは浴びたようだが、全然記憶にないのだ。
まだ朝早いし、しばらくじっとしていよう… そう思って寝直したが、静寂は長くは続かなかった。6時過ぎに子供達が目を覚ましてしまったのである。特に上の子は、後で聞いたところ午前3時すぎにも目を覚ましていたとのことで、睡眠時間も短かったはず。それでも元気に起きてくるとは、旅先の魔力のなせる業であろうか。
しばらくベッドの近辺でのんびりした後、ホテルの1階にあるレストランでバイキングの朝食を摂った。料理そのものも美味しかったが、それ以上に目を引いたのは、外国人客の姿が目立つことであった。グランドホテルの格式ゆえか、それとも札幌の街自体が国際単位で人々を引き寄せているのか、それはわからない。
朝食後、部屋に戻る。9時前後だろうか、旧友に昨晩の礼をメールした。すぐに返信が来る。なんと、彼は私をホテルまで送り届けた後別の店で飲んだそうで、今起きたばかりだという。そのタフさに驚いた次第。
ホテルをチェックアウトしたのは、10時少し前のことだった。ただし、市内観光をした後再び札幌駅へと戻るつもりなので、荷物だけはフロントに預けた。
まず足を運んだのは、ホテルから徒歩数分の近さに位置する大通公園。ここは、札幌観光には欠かせないスポットだと思う。大都市のど真ん中によくぞこれだけの空間を確保できたものだと思う。昔の札幌市民の先見性にただただ脱帽する次第。ただし、晩冬ということもあり、園内は雪が積もっており、自由に入れるスペースは限られている。先月開催されたさっぽろ雪まつりで使用されたと思われる雪像の基礎も残っており、若干見苦しい。
そんな中でも四季を通じて変わらない姿を見せているのが、公園の東端に位置するさっぽろテレビ塔。言わずと知れた、札幌を代表する展望スペースである。
が、訪れてみると、展望スペースというよりは、非公認キャラクターのゆるキャラテレビ父さんをPRする場所と化していた。地元では相当な人気なのだろう。塔内で売られているグッズの大半が、テレビ父さん。考えてみると、さっぽろテレビ塔の展望台の位置は地上90メートル。JRタワーの最上階が地上160メートルということだし、至近には地上40階建てという高層マンションも建っているので、展望スペースとしての役割はお役御免に近いものがある。だからこそ、テレビ父さんをテコにして、観光スポットとしての生き残りを図っているのだろう。テレビ塔のスタンスは、東京スカイツリー完成後における東京タワーのあり方の良き参考になるかもしれない。
それでも、テレビ塔の展望台からの眺めはなかなかのものだった。大通公園の広さがよくわかるし、大倉山や藻岩山など、地上からでは見ることができないスポットも見渡せる。高層ビルが多く建つ札幌の街であるが、二条市場の一角だけ建物が低層なのも面白い。
テレビ塔を出、近くにある階段で大通公園の地下に降りる。ここもまた、エレベーターやエスカレーターが設置されていない。子供達が足を踏み外さないかヒヤヒヤしながら長い階段を降りた。
降りた先は、オーロラタウンという名の地下街。子供達は特段の感慨を見せなかったが、妻は大喜びである。店舗の種類も意外に豊富で、ブランドショップが目についた。地下街が存在しない東北地方の人間の認識だと、地下にあるお店はレストランや食料品系のお店が殆どという感覚があるから、かなり新鮮に映る。
地下街を抜けると地下鉄の大通駅に着く。南北線東西線東豊線と札幌に三つある地下鉄路線のすべてが停車する市内交通の要衝だ。ここから東西線の列車に乗って西の終点・宮の沢まで行き、駅至近にある石屋製菓白い恋人パークを訪れる予定である。
子供達は、地下鉄に乗るのも初めてである。だからだろうか、プラットホームで妻が構えるカメラにVサインで応えている。が、ここで、個人的には残念なことがあった。ホームに設けられたホームのあの存在が、札幌の地下鉄の肝心な部分を覆い隠しているからである。
札幌の地下鉄は、二条のレールに鉄の車輪を走らせる「鉄道」ではない。走行路面上を中央にある案内軌条に案内輪をあててゴムタイヤで走行するという「案内軌条式鉄道」であり、東京のゆりかもめや神戸のポートライナーなどと同種のものである。昨日の旭川駅でもスーパーカムイや偶然ホームに停車していた臨時特急・旭山動物園号を撮影していた「撮り鉄」の妻にそのことを説明しようと思ったのだが、独特の軌条や車両を撮影しようにもホームドア越しの危険な行為となってしまうので、諦めざるを得なかった。
地下鉄に乗車。最初ははしゃいでいた子供達であったが、車窓が真っ暗闇では興味が失せてしまい、早々と眠ってしまった。ゴムタイヤで線路の継ぎ目を通過する際の振動音もないから、グッスリと眠れたであろう。また、揺れも少なく、乗り心地も良かったように思う。
ただ、宮の沢に到着する直前、ポイントを通過するのか、車両が急にカーブし、車内が大きく揺れた。その際「曲線部を通過するため揺れますのでご注意ください」というアナウンスがあったから、札幌では日常茶飯事の光景なのだろう。が、「曲線部」という表現に妙なおかしみを感じてしまったのか、妻は一人で含み笑いをしていた。
宮の沢に到着。1999年に開業した新しい駅だけあって、構内にはエスカレーターが完備している。面白いことに、動く歩道まで整備されていた。実は昨日の新千歳空港でも目にしたのだが、いずれにせよ我が地元には存在しない乗り物なので、子供達は興味津津。幅いっぱいに占領して、進行方向とは逆の方向に歩いてみたり、ちょっと悪ふざけ。
ちょうどその時、後ろから人がやってきた。「どきなさい」と注意する妻。エスカレーターや動く歩道に乗った時には歩いてくる人のために片一方を空けるという暗黙のルール。福島では未だに根付いていないので子供達にもこれまで教える機会がなかったのだが、覚えさせるいいチャンスかもしれない。口うるさいと思われるかもしれないけれど、帰宅するまでの時間を使って指導してみるとするか。
エスカレーターを上り、西友と一体になっている宮の沢駅の地上出口へ。白い恋人パークは駅から近いと聞いてはいたが、我々が持参した観光ガイドブックには札幌市郊外の詳しい地図は掲載されていないので、目的地が本当に近いのか判断がつきかねる。周囲が新興住宅地やロードサイドショップ、工場などで占められているから、尚更だ。
だから、白い恋人パークにたどり着いた時には、本当に安堵した。旧国道5号線に面した、中世城郭のような工場が印象的だ。
玄関を入ると、高さ1.5メートルほどの小さな家が何軒も並んでいる。その中で楽しそうに遊んでいる子供達。下の子もまた、この家の魔力に引き寄せられたのか、嬉しそうな顔をして遊んでいる。このシーンを目にしただけで、連れてきた甲斐があったと思う。
白い恋人パークの内部も、かなり見応えのあるものだった。特に興味深かったのは、チョコレートの歴史を展示したコーナー。160年ほど前までチョコレートは飲み物だったことなどやチョコレートを初めて飲んだ日本人が支倉常長であったことなどが、当時の食器類などを交えて詳しく説明されていた。
白い恋人の製造過程の一部も、見ることができた。完全にオートメーション化された工場で、人間の役目はクッキーに挟むホワイトチョコレートを専用の機械に充填することと、クッキーの割れ欠けがないか検査することぐらいだろうか。しかもそれが、午前9時から午後5時まで延々続くらしい。学生時代に、ビール工場でビール瓶にラベルを貼る機械にラベルを終日充填するだけのアルバイトをしたことを思い出した。簡単な単純作業だが、時間の経過が遅く感じられ、非常に疲れる仕事だ。白い恋人の作業員も同じ心境だろうかと気になった。
そんな感じであちこち歩いたら、ちょっと疲れた。小腹もすいた。その辺白い恋人パークは抜かりなく、喫茶店など用意して我々の足を止めてくれる。妻と私は白い恋人と並んで石屋製菓の看板菓子である白いバウム、子供達はチョコレートパフェを注文する。
茶店は建物の4階にあり、ある程度の眺望がきく。すぐ近くに、サッカー場が見える。現在はJ2に所属するコンサドーレの専用練習場とのこと。石屋製菓ではコンサドーレのサポートに力を入れており、ユニフォームの胸にも白い恋人のロゴが踊っているぐらいだ。
実は、昨日から札幌の街を見ていて、ファイターズを応援する横断幕は多く見られてもコンサドーレのそれが殆ど見られないことが、若干気にはなっていた。仙台でも同様にイーグルス偏重、ベガルタ軽視の風潮が見られるので所詮Jリーグはプロ野球には敵わないのかなと思ってしまうのだが、石屋製菓のような有名企業がバックアップしているのを見ると、何となく嬉しく思う。
白い恋人パークで2時間近く過ごし、再び宮の沢から地下鉄に乗って大通へと戻る。喫茶店で軽く食べてしまったが、昼食は札幌市内で摂ろうかと思っている。食べたいのはやっぱり、札幌ラーメン。恐らく札幌で最後の食事となるであろうだけに、札幌を代表する料理(?)で締めたいと思ったのだ。大通の改札口を出た我々は、再び地下街を歩いてラーメン屋を探した。ただし、歩いたのは先ほど訪れたテレビ塔付近へ出るオーロラタウンではなく、ススキノ方面へと出るポールタウンである。
オーロラタウンにはそれなりに飲食店があったような気がしたのでラーメン屋はすぐに見つかるものと思っていたのだが、ポールタウンにはラーメン屋が一軒しかなかった。しかも、味の時計台という名の東北地方にもFC店を有するチェーン店だったので、却下。結局、すすきの駅までたどり着いてしまった。ガッカリはしたものの、逆にススキノの地上で探せばいいやと気持ちを切り替え、地上に出る。ただし、ここでもエレベーターやエスカレーターは見つからず、長い階段を登らざるを得なかった。
地上に出ると、目の前の道路にちょうど市電の駅があった。子供達は路面電車を見るのも初めてだ。「この電車はね、道路の上を走っているんだよ」と妻が説明しても、なかなか納得してくれない。1、2区間ほど乗せてあげればわかるかなと思いかけたが、本来の目的からどんどん外れてしまいそうなので、やめにした。
その本来の目的であるラーメン屋探しは、当てずっぽうで目に止まった店に入ることにした。店名は「らー麺 とぐち」。テーブル席が二つか三つであとはカウンター席だけという狭い店だった。4人まとめて座れるスペースがなかなか確保できず、しばらく待たされてからようやく着席。
ラーメンを注文。味噌ラーメンが主力のようだったので妻と私と下の子はそれを頼んだが、塩ラーメン好きの上の子だけは塩ラーメンを注文。どこまでもマイペースである。食べる。味はまずまずといったところか。札幌ラーメンと言えばバターやコーンが入っているイメージが強いが、この店に関してはトッピングメニューとして別料金となっていた。