2011年3月12日 ~震災翌日 仙台から桑折まで歩く③~

たけくまから西進して主要地方道仙台岩沼線へと入り、ここを南下して国道4号線へと出る。3月6日に歩いたばかりのルートであるが、まさか今日再び歩く機会が訪れるとは思ってもみなかった。国道との合流点の近くにコンビニがある。田園地帯の店舗だしひょっとしたら並ばずに買い物できるかなと期待していたのだが、あいにく開店していなかった。
国道を西進し、柴田町に入っても同様の状況。岩沼市寄りに位置する槻木地区の東端にあるコンビニでは販売を行っていた様子が伺えたが品切れのため閉店を余儀なくされたようで、店に残っていた店員が来客に向かって申し訳なさげに釈明していた。
コンビニの他には、ホームセンターも人気度が高いようだ。槻木のホームセンターにもまた、長蛇の列。どこもかしこも、買い物をするだけでかなりの時間と労力を使わざるを得ない状況のようだ。そのうち暴動が起きないだろうかと心配になる。
柴田町内の被害状況は、玄関先が大きく崩れた仏壇屋なども見受けられたが、海に面していないこともあり、岩沼市以北に比べると幾分軽微なようだ。沿道に展開する東京からの距離表示を確認すると、320キロ台の半ばといったところ。仙台から既に20キロ以上歩いているが、桑折まではフルマラソンと同程度の距離を残している。時計が見当たらないので時刻は判然としなかったが、太陽の昇り具合を見ると既に正午は過ぎているようだ。果たして日没までにどこまで歩けるか… せめて県境は越えたいと思うが。
時間経過への不安を覚えながら更に西進すると、イオン船岡店の正面にあるコンビニが開いているのを確認。行列もないようなので、食料調達に入ってみることにする。
ある程度予想していたことではあったが、店内の棚は殆どもぬけの殻であった。せめてスナック菓子ぐらい残っていればと思っていたのだが、食べ物はガムや飴といった非常時にはまるで役に立たない嗜好品の類しか残っていない。飲み物も同様で、缶コーヒーやアルコール類など、万人受けしないものばかりが並ぶ。
どれにしようかしばし考え、辛うじて残っていたシナモン入りのチョコとガム、あと缶コーヒーと缶チューハイをそれぞれ一つずつ買う。ないよりマシといったラインナップである。缶チューハイは、もし福島県まで歩き通せることができたならば一人でヤケクソの祝杯でも挙げようかと思い買ってみた。こういうモチベーションでもないと、この先の長い行程、やりきれないものになりそうだ。
レジに並ぶ。私の前には母子連れ。棚に置いてあったトレーディングカードが欲しいとねだる子供に対し、「そんなの買ってられないよ!」と叱る母親。平時でも見られるシーンだが、母親の買い物カゴを覗いてみると、タバコが数箱… 非喫煙者の私はタバコなんか我慢して子供が喜ぶものを買ってあげた方がいいんじゃないかと思うのだが、タバコもまた常用者にとってはかけがえのない精神安定剤の役割を果たしているし、どちらを選ぶかと言われれば回答に困るところではある。
コンビニの駐車場でチョコを食べて丸一日ぶりに胃袋に食糧を送り込み、ガムを噛みながら国道4号線を更に西進。大河原町へと入る。なお、この辺りが仙台と桑折との中間点にあたる。
国道沿いのロードサイドショップ街の店舗は、案の定大半が閉まっていた。窓ガラスが大破したカーディーラーなども見られ、早期の復旧は容易ではなさそうな気がする。そんな中で、業務用食材卸のサトー商会の店舗が開いているのが目を引いた。コンビニといいサトー商会といい、食料品関係の店舗は比較的動きが早いので、感心する。
が、昨日来震災の現場を歩いてきて、食料品同様に暖をとるための毛布や衣料品の必要性も痛感する。大河原にもその関係の店舗はいくつかあるのだが、いずれも開いていなかったのは少し残念に思った。
大河原町内を通り抜け、蔵王町へと入る。この辺りの国道沿道もまた、3月9日に歩いたばかりなので、土地勘はある。
が、大河原から白石までのルートをみた場合、国道も東北本線もこれらの中間を流れる白石川も東西方向から南北方向へとカーブを描いている。従って、その中で最も北西寄りを通っている国道は「アウトコース」ということになり、余計な距離を歩いてしまうことになりかねない。白石川を渡って白石市街の南東を掠めるように進み、白石市南部の斎川、越河へと至るルートが、ロスが少なくて済むのだ。ただし、このルートは多少の高低差があり、体力の消耗が心配な区間でもあるのだが。
この考えに従い、蔵王町に入ってすぐの地点にある北白川橋で白石川を渡って白石市域に入り、東北本線北白川駅の前を通過して県道北白川停車場犬卒塔婆(いぬそとば)線へと歩を進める。この道路は、4年ぐらい前に歩いた記憶がある。白石川支流の高田川に沿っており、北白川駅周辺を除けばセンターラインも歩道もきちんと整備されている。先に述べたように大河原町白石市との最短経路としても機能しており、農村然とした周囲の景観に比して通行量は少なくないのだが、今日は土曜日ということもありさほどでもなかったので幸いだった。
この県道は白石市白川犬卒塔婆というちょっと変わった名前の場所で、国道113号線と合流する。この国道もまた歩道が整備されている歩きやすい道だが、合流点に店を開けているコンビニがあったので、新たな食糧を求めて一休み。船岡のコンビニと同様に品切れ寸前の状況であり、食べ物らしいものは一切なし。飲み物もまた缶コーヒーやアルコール類ぐらいしか見当たらなかった。とりあえず水分補給だけでもしておきたいと思ったので、缶コーヒーと炭酸水を一本ずつ買う。
なお、炭酸水は、ウイスキーや焼酎などを割るために売っているもので、特段味がある訳ではない。ないよりマシだと思って口に含んでみたものの、炭酸が喉を強く刺激し、飲む前よりも喉が渇くという悪循環を招いてしまった。