2011年5月7日 ~飯坂足湯めぐり~

ゴールデンウィーク中は仕事が想定外の激務となり、子供達と遊ぶことも、外出することもかなわなかった。
そんな中で迎えた、今日、明日の連休。
家で悶々としていないでどこかに行こうよという妻の提案で、飯坂温泉まで出掛けることにした。
お目当ては、昨年オープンした旧堀切邸。子供向けの施設なのかどうかは微妙なところだが、うちの子供達に関して言えば一昨年に福島市民家園を訪れた時の食い付きが良かったので、喜んでくれるかなと妻は思ったようだ。
12時半に自宅を出発。途中伊達の吉野家で昼食を摂り、飯坂に着いたのは2時頃のことであった。旧堀切邸には駐車場がないので、温泉街の外れにあるパルセいいざかでクルマを停め、歩くことになる。歩くとなると私の出番だ。クルマが通れないような隘路に妻子を案内して、一人悦に入っている。まずは私が楽しまなければ子供達も喜んでくれないのでは、と思う。
飯坂けんか祭りが開催される八幡神社の前を通り、旧堀切邸へ。
広い敷地に立つ純和風の屋敷を一目見た子供達は、「わ~、でっかいお家だね~!」と興奮していた。連れてきて正解だったと一安心。
堀切善兵衛、善次郎兄弟の事績が所々に紹介されている屋敷内を回った後は、敷地内に設けられている足湯でリラックス。ここ数年各地の温泉で足湯を見かけるようになったが、意外なことに我々家族全員が足湯初体験。果たしてどんな湯加減なのだろうと、期待を込めて「入浴」。
ぬるめのお湯だったが、結構気持ち良い。足だけ漬かっていても前進入浴した感覚になる。足湯が多くの人の支持を集めているのがよくわかった気がした。子供達もまた大喜び。水遊び感覚で足湯を楽しんでいた。
「飯坂は、ここの他にも足湯があるんだよ」と言うと、「行きたい!」と所望する子供達。とりあえず、旧堀切邸を辞し、徒歩3分ほどの位置にある鯖湖湯へと案内する。ここもまた純和風の外観を有する公衆浴場であるが、敷地の外れに「あーしあわせの湯」という名の足湯がある。住人か観光客かはわからないが通行人がちらほらと歩く目の前で、靴、靴下を脱ぎ、再び「入浴」。
旧堀切邸の足湯よりも、若干温度が高いような気がした。飯坂温泉は元々泉温が高いし、鯖湖湯は温泉街の中心にあるから、足湯の温度も飯坂らしく高めにしてあるのだろう。
この辺りで、子供達は完全に「行楽モード」に入ってしまったようだ。「飯坂にはこの他にも、波来湯(はこゆ)にちゃんこちゃんこの湯と二つの足湯があるようだぞ」と言うと、「行きたい!」と目を輝かせながら即答。飯坂を含む福島市周辺は福島第一原発の事故直後から高い放射線量を記録しており屋外での長時間行動には細心の注意を測らなければならないし、そもそも飯坂温泉は名産品の一つにラジウム卵があるわけだからひょっとして放射能線!? 不安がいろいろと脳裏をよぎったが、子供達の笑顔には敵わない。彼らの脳内でドーパミンが分泌されているのだとしたら、免疫力だって高まっているだろう。期待に応えなければならないと思う。
そこで、鯖湖湯から徒歩3分ほどと程近い距離にある波来湯へと、足を運ぶことにした。摺上川に面した波来湯は旧堀切邸と同様に昨年小公園的に整備されたスポット。以前は若喜旅館の焼け跡が無残な姿を晒していたのだが、生まれ変わった姿を見て驚く。子供達も大喜びだ。
川辺の足湯というのもオツな雰囲気だが、川の対岸は多くが廃墟と化したホテル群で占められていて少々殺風景。ただし、一部のホテルでは、ベランダに洗濯物が干されていたりしてそれなりに活用されているようだ。宿泊客がいるにしては生活感が漂っているのでどういうことだろうと思ったが、そう言えば福島第一原発付近の住民が飯坂のホテルにも避難していると以前聞いたような気がする。ここまでの温泉街を歩いていて歩行者が意外に多いのも先ほどより気になっていたのだが、彼らのうちいくばくかもまた避難者なのだろうか。
多少ぬるめのお湯だった波来湯を出、次の目的地となるちゃんこちゃんこの湯へ。この足湯は、波来湯から見て摺上川の対岸にある湯野地区にある。飯坂温泉駅前にかかる十綱橋を渡り、5分ほど歩くと到着。廃業したホテルないしは飲食店の1階部分を改装した施設であり、これまで訪れた足湯が純和風の建物で占められていたのに比べると幾分地味な雰囲気ではあったが、泉温は異常に高かった。我々が訪れる前から足湯に漬かっていた年配の男性に話を伺うと、ちゃんこちゃんこの湯は源泉から直に引湯しているので、48度ほどあるという。家族全員して「アチィ!!」などと叫びながら、足元の湯と格闘する。上の子は泉温の低そうな場所を求めて狭い浴槽をウロチョロするし、下の子は漬かるのを諦めて、「塗り湯するの」とお湯を掬っては脹脛や足首に塗りつけていた。
そんな感じで戯れる子供達をよそに、我々夫婦は男性と会話を楽しんでいた。50年以上前に国見町から飯坂へと移住したその男性は、御年78歳とのこと。温泉街を芸者が行き交っていた昔日の華やかなりし飯坂の様子や、自宅にも風呂はあるけれど温泉街の共同浴場に入った方が安上がりだという生活の知恵、そして今飯坂に訪れている避難者のことなど、興味深い話をいろいろと伺った。こういった触れ合いもまた、足湯の楽しさを倍加させてくれるように感じた。