2011年5月30日 ~阿武隈急行乗車記~

今朝の通勤電車が、大雨の影響により槻木駅でストップしてしまった。
車掌は最初のうち「槻木~岩沼間で安全確認のため運転を見合わせ…」云々とアナウンスしていたのですぐに運転再開になるだろうと高をくくっていたのだが、時間が進むにつれ槻木~岩沼間から福島~一ノ関間と運休区間が大幅に拡大され、運転再開時刻も正午過ぎの見込みとされるなど、まるでどこかの原発事故のように事態がどんどん深刻化していった。
車内や駅の待合室は苛立つ乗客で溢れていた。ある意味こういう事態に慣れていた私は比較的冷静さを保っていたのだが、槻木で足止めとなるとどのような手段で仙台まで行けばよいのか、皆目見当がつかない。
まず思いついたのはタクシーを呼んで一気に仙台まで行く方法であるが、恐らく片道で7,000円ぐらいかかるので、一人で決行するのは憚られる。加えて言えば、既にその手段で出立した乗客が少なくないせいか、駅前広場にはタクシーの気配が全くなかった。槻木駅からは路線バスの便もない。雨は激しさを増し雷鳴すら轟いているので、得意の(?)徒歩移動もままならない。
こんな具合なのでとりあえず勤務先には遅れる旨連絡を入れ、とにかく待つしかないやと諦めかけていたところ、阿武隈急行の列車がホームに滑り込んできた。槻木駅阿武隈急行の終着駅だということをすっかり忘れていた。どうやら、多少の遅れはあるものの運行はしているらしい。そうか! 阿武隈急行で福島駅まで戻り、新幹線に乗って仙台に向かうという手があるじゃないか。こんな時でも、新幹線が不通になる事態には滅多にならないはずだし… そう思った私は、福島行となった折り返しの電車に飛び乗った。正確な時刻は失念したが、9時40分過ぎのことであったろうか。阿武隈急行の電車に乗るのは、昨年2月6日、大雪の日に梁川から川俣まで歩いた際に乗って以来のことである。
曇りがちな窓から外を見ると、田んぼや河川の水量が増えているのがわかる。畦道まで冠水していた。東北本線の沿線には広々とした田んぼが少ないから、そんな状況になっていたと初めて知った。
しばらく走って、角田駅に到着。ここから国道113号線を経由して白石蔵王駅まで行くバスがあればいいなとふと思う。そうすれば福島駅まで引き返さずに済むのに。いや、東日本大震災の影響で常磐線の開通区間亘理駅以北に限られていることや相馬市と福島市とを結ぶ国道115号線沿道の放射線量が高いことも考えると、臨時措置として「原ノ町駅相馬駅丸森駅角田駅白石蔵王駅(~福島駅)」の長距離バスを走らせてもいいのではなかろうか。相馬地方を陸の孤島にさせないためにも、相馬市から角田市白石市へと至る国道113号線はもっと活用されていいように思う。
丸森駅を過ぎると峡谷に入り、線路は阿武隈川をいったん渡った後この川に寄り添うように進む。時計の針は10時を回りもう一度勤務先に連絡を入れた方が良さそうな頃合いだったが、あろうことか携帯は「圏外」の表示… 今の時代、高山やトンネル以外の場所でそんな表示を目にするとは思わなかった。
一方、川を見ると、増水した上にコーヒー色に濁った激流となっている。あの中にどれだけ放射性物質が溶け込んでいるのだろうかと、心配になる。明治時代に起こった足尾鉱毒事件や富山県で発生した日本初の公害病イタイイタイ病の例を見てもわかるように、健康被害をもたらす有害物質は川の流れに従って下流域にも広がる。放射性物質についても同様の懸念が示されてしかるべきだが、宮城県や流域の市町の動きは総じて鈍いような気がしてならない。
県境を過ぎ、兜駅の付近でようやく携帯が使えるようになった。早速、勤務先に電話。
「これから福島駅に出て新幹線で仙台に行く予定なんだけど、着くのは早くて午後1時ぐらいかな…」
「あ、大変でしょうから、今日は休んでいいですよ。休日は他の日と振り替えることにしますから…」
気を遣われてしまった。申し訳なく、また恥ずかしくも思う。いくら不可抗力とは言え、遠距離通勤は定刻まで確実に出勤するという信頼関係があって初めて成り立つもの。ハメハメハ大王の子供のような行動は厳しく慎まねばならないはずなのだが…
電車はやたらと長い駅名標を有するやながわ希望の森公園前駅を通り過ぎ、梁川の街へと入る。1986年8月5日の豪雨で甚大な被害を受けた所だが、車窓から見た限りでは冠水、浸水などは見られないし、町内を流れる広瀬川阿武隈川ほど増水しているようには見えない。今日の大雨は、福島県よりも宮城県の方が降りが激しいようだ。
福島氏に入り、再び阿武隈川を渡河。更に国道4号線をオーバークロスすると、その先には福島学院前駅のホームが現れる。確か東日本大震災でホームが崩落する被害を受けたと記憶していたが、何事もなかったように復旧していたので驚いた。原発事故で福島県は壊滅的な被害を受けつつある~現在進行形である!~が、決して「復興力」がない訳ではない。その象徴を見たようで、頼もしく感じた。
東北本線の線路に合流し、11時10分頃、福島駅に到着。仙台に行く必要がなくなったので、これから帰宅する。東北本線は藤田までは運転を再開していたようで、福島駅の在来線ホームには12時00分発の藤田行の電車が停まっていた。多少待つことにはなるが、藤田まで運行再開してくれたのは有難い。
ただし、藤田以北、仙台を経て小牛田までは午前中どころか終日運休との話。帰宅後に知ったことだが、仙台市内、特に海に近い東部ではでは冠水した箇所も多かったそうだ。出勤を強行していたら今度は帰宅時に頭を悩ませていたのだろう。勤務先の気遣いに、改めて感謝した次第である。