2009年2月18日 ~蓬莱ニュータウン訪問記~

我が早朝散歩で最も多く訪れている自治体はおそらく福島市かと思われるが、同市のなかでもまだ訪れていない地域は、いくつか存在する。市の北端で摺上川の上流に位置する茂庭、吉井田から土湯温泉にかけての国道115号線沿道一帯、松川町の西側に位置する農村地帯の水原など、その多くは鉄道駅から離れた地域なのであるが、意外なことに、福島市中心部からほど近く、鉄道駅からもさほど離れていない蓬莱ニュータウンを、まだ訪れたことがなかった。
珍しい平日公休となった今日、その蓬莱を、訪れてみようかと思う。人口1万人を超え、郡山市の緑ヶ丘、いわき市の中央台と並び福島県を代表するニュータウンである蓬莱も、造成から30年以上を経、ここ数年は住民の高齢化もあって変容を迫られているという話だし、その様子の一端も覗ければな、と思う。
子供を見送った後の午前8時に、自宅を出発。桑折駅発8時13分の普通列車に乗り込み、まずは金谷川駅を目指す。よく考えてみると、ここまでは昨年11月10日の行程と全く同じであった。
8時50分、定刻通りに金谷川駅に到着。昨秋はここで下車して近くの福島大学へと向かう学生の群れと別れて金谷川スカイラインへと向かったのだが、今日は学生と一緒にキャンパスの中へ。金谷川への移転から30年を迎えたキャンパスは適度に老朽化しつつあり良く言えば大学にふさわしい風格がついたと言えなくもない。二次試験を目前に控えており、構内には受験場への案内板や受験生を応援する垂れ幕が見られる。私もまた受験生には頑張って欲しいとは思うものの、4月に入学する新入生は、現役ならば私がこの大学に入学した1990年度の生まれとなる。時の流れは残酷だ。
構内を奥州街道に面した「正門」から出、蓬莱へと向かう。向かうルートとしては500メートルほど北にある若宮(浅川新田)宿から右に曲がって福島県立医科大学(以下「医大」と省略)のキャンパスに出るルートと2キロほど歩いて国道4号線をアンダークロスした先にあるゴルフ練習場の脇のT字路を右折するルートの二つあるが、医大のキャンパスにも散歩で訪れたことがないという理由から、前者を選択。道幅3、4メートル程度の細道で、人車ともに通行は殆どない。金谷川駅の出口には「医大方面」と書かれた案内板があったはずだが、駅からこの道を歩いて医大へと向かう学生は、多分皆無であろう。ちなみに、医大の正門前に着いた時、時計が9時20分を示していたから、金谷川駅からの歩行時間はちょうど30分。私の脚なら十二分に徒歩圏内ではある。
医大の前に着いて気になったのだが、構内に出入りするクルマが多く、周辺に設けられた駐車場もほぼ満車であること。隣接する付属病院への通院者かなと思いきや、クルマの運転席をチラっと見ると、若い顔が目立つ。どうやら学生の利用も、一定数あるようだ。
医大からは片側2車線の広い道路を歩き、いよいよ蓬莱へ。丘陵いっぱいに住宅が展開する様子は、なかなか壮観だ。福島市にもそんな景色があったんだと、ちょっぴり感動する。ニュータウン南端の交差点で右折し、その住宅街の中へ。センターラインがない道路であったが歩道がカラータイルで舗装されているのが、いかにもニュータウンらしい。道路の両側に展開する家々は、70年代から80年代に建てられたものであろうか、それなりに落ち着いたたたずまい。ただし、中には外壁のリニューアルを施された家もあり、そこだけは周囲から浮いている感じだ。
各地の新興住宅地には宅地が長い間建てられずに誰かの畑になってしまっていたり雑草が生え放題になっている空地があったりするものだが、蓬莱にはそれは殆ど見られない。造成・分譲した側にとってはそれは好ましい話ではあるが、蓬莱の「今」を考えると、住宅地としては伸びしろがないことを意味している。また、60年代以前に開発された住宅地の中には従前の住宅が取り壊されてアパートに建て替えられるケースもあったりするが、それも蓬莱ではないようだ。そう言えば、個人商店やコンビニも、全然見られない。歩けど歩けど一戸建。蓬莱の土地利用に関してどのような制限がかかっているかは全く知らないが、住民高齢化や地域活性化の視点から考えると、近い将来、多様な利用が認められる方向になるべきだとは思う。
そんな感じでニュータウン南部の蓬莱町6~8丁目を歩いた後、一旦ニュータウンの外に出、丘陵に囲まれた農村地帯を少し歩く。ニュータウンが造成される以前の蓬莱はこんな感じだったのかなと想像してみる。阿武隈川を挟んで対岸に位置する立子山に似た雰囲気だ。付近の地名を地図で見ると、「戸ノ内」「杉ノ内」「山ノ内」と、「…ノ内」(アイヌ語系の「ナイ」ではなく「ウチ」と読む)がつくものがやたらと多い。立子山にも「若ノ内」「城ノ内」という地名があるので、妙に気になる。「…ノ内」とはどういう意味だろう?
再びニュータウンに戻り、東に向けて歩く。今度歩くのは福島市役所の支所や中央公園がありニュータウンの要でもある4丁目。住宅も、先ほどの一戸建一辺倒ではなく、福島市福島県が建設した集合住宅が目立つ。集合住宅もまた建設から年数が経ち、適度にくたびれた印象。一戸建とは違い内装のリニューアルが施しにくいだけに、今のニーズに合っているのかは気になるところだ。なお、4丁目では、ニュータウンの要だけあって、通行人の姿も目立つ。犬を散歩させているお年寄り、外出帰りだろうか談笑しながら歩く中年女性の二人連れなど。それなりの活気を感じる。
ところが、更に東の2丁目へと歩を進めると、愕然とする光景に出くわしてしまう。まず目に飛び込んできたのが、昨夏に建て替えられたばかりの蓬莱ショッピングセンター。以前は3階建ての大きな施設だったのに、リニューアルして若干小ぢんまりとした印象だ。しかも、従前は建物内に個人商店が結構あったはずなのに、今はキーテナントのスーパー・いちいが大半を占めている模様。そして更に東には、「幼稚園の跡地」が。かつては子供達の声で賑わっていたであろうが、児童数の減少に伴い数年前に閉園してしまったとの由。いずれも、蓬莱の衰退ぶりが嫌でも目についてしまう雰囲気だ。