2010年5月6日 ~東邦銀行支店巡礼⑯ とりあえず、杉田駅まで歩く(後半)~

GPSのお陰で歩くべきルートに戻ることができたものの、先へと進むにつれて人家も農地も消え失せてしまい、再び丘陵の中へと分け入ってしまう。道路自体がセンターラインの引かれた立派なものであるのが頼みの綱という状況である。路傍にちらほら見える表示を確認すると、この道路は、どうやら農免道路として整備されたものであるらしい。そして、この道路の行く先には、農業用水用のダムとして整備されたあだち湖(山ノ入ダム)がある。丘陵のサミットを越えて坂を下ると、あだち湖まで1キロと表示された看板があった。
ところが、どう考えても、看板から1キロ歩いてもあだち湖にはたどり着かないように思えた。板橋という小さな集落を通り抜けると、眼前には再び丘陵が現れる始末。その丘陵の中腹には、あだち湖まで400メートルと表示された看板が、私をあざ笑うかのように立っていた。帰宅後に地図で確認すると距離表示は確かに間違っていないようなのだが、既に2時間以上歩いてきた身に襲いかかるアップダウンの連続で、距離感覚が狂っていたのだろう。ちなみに、板橋集落は、二本松市渋川に属している。いつの間にやら福島市との境界を過ぎていたのか。市境を示す標識は、なかったような気がする。
あだち湖は、丘陵を登るとすぐに現れた。農業用水用のダムだから水量も大したことはないだろうと高をくくっていたのだが、意外に規模が大きい。湖畔には、遊歩道も整備されているようだ。釣り人が何人かいて、糸を垂れている。聞くところによると、あだち湖ではブラックバスが釣れるという。どういう経緯であだち湖にそんな魚が棲みつくようになったのか、私にはわからない。
あだち湖を過ぎると、農道は一気に丘陵を降りる。周囲はまたもや農村風景へと変わる。この辺りは標高が高いのか、田んぼにはまだ水が張られていない。周辺の丘陵の斜面には桜の花がまだ散らずに残っており、西の方角には、残雪が残る安達太良山の姿が若干ぼんやりとであるが見えていた。
その安達太良山に抱かれた塩沢温泉へと至る県道安達太良山線に、農道は合流。ここから先は、県道を1キロほど歩いた後、鉄扇橋という若干いかつい名前のバス停の前を右折し、南にある二本松市街へと向かう。この辺りの農地は畑ばかりで田んぼが少なく沿道には時折杉木立が展開している。鏡のように水が張られた田んぼと違って畑は日光を反射しないし、杉木立は木陰を形成し涼を提供してくれる。この時点で、福島駅を出発して4時間近くが経過しているので、こういうロケーションは非常に助かる。
が、そんな安らぎをぶち壊すかのように、左手から東北自動車道の築堤が近付いてきた。クルマの姿は見えないが、音はハッキリと聞こえる。高速で走るクルマの音は、暑さを強調する役割を果たしているように感じる。加えてこの辺りから、沿道に水の張られた田んぼが増えてきた。再び難行苦行(?)に突入してから15分ほど歩いていると、二本松市中心市街地が近付いてくる。ただし、丹羽家10万石の城下町ではなく、東北自動車道二本松インターチェンジを中心に広がっているロードサイドショップ街である。
このロードサイドショップ街はクルマで何度か通ったことがあるので、特段目新しい発見はないものと思っていた。が、沿道にデニーズが営業しているのを見て、ちょっと驚く。このファミレス、実は福島市内ではここ数年の間にすべての店舗(4店舗はあったと思う)が撤退、閉店しているのである。だから経営状態が苦しいものかと認識していたのだが、その福島市より人口規模が小さい二本松市でどっこい生きていた… 二本松のデニーズが特別優良な店舗なのかもしれないのだが「何故、どうして」の感が拭えない。
さて、デニーズの前に着いた時点で、時刻は10時15分を指している。西に1キロほど歩けば二本松駅に着くしちょうどいい塩梅に10時31分発の下り列車も出ているのだが、ここはもう少し踏ん張って、二本松の一駅南にある杉田駅まで歩くことにする。下らない意地だとは承知しているものの、2月6日に伊達市梁川町から川俣支店(111)まで歩いた際の自己最長記録である4時間34分を上回りたいと思ったからだ。郡山ブロックでは4時間、5時間かけて歩き通すコースもいくつか設定しているので、ちょうどいい練習にもなる。
かくて、二本松駅に背を向け、県道須賀川二本松線を、杉田駅に向かって南下する。この県道は区間の大半が奥州街道と重なるが、二本松インターチェンジを挟んで松岡から正法寺町までの区間はルートが異なっている。その正法寺町で奥州街道が左手から合流するかしないかの所で、散歩時間が4時間34分を超えた。その後は国道4号線をアンダークロスし杉田の宿場町を通り抜けて、10時54分に杉田駅に到着。散歩時間は4時間59分であった。
杉田駅を発つ福島方面への下り電車の時刻は、11時26分である。待合室の壁に貼られた時刻表を見ると、郡山方面への上り電車の発車時刻もまた、11時26分と偶然の一致。電車が同時に二つも来るからそれなりに賑わいそうなものだが、あいにく杉田は無人駅。発車直前にホームに立っている人を数えてみたら、下り列車の発着する1番線が私を含めて二人だけ、上り列車の発着する2番線が四人であった。
こんな具合に人数こそ少なかったが、郡山方面へ行く人が福島方面へ行く人の二倍いたという事実は、それなりに心に響くものがあった。福島駅から5時間近い時間を歩き通して郡山都市圏の入口へと足を踏み入れたんだぞ、と。
そして次回の散歩では、杉田駅を起点に郡山の中心部へと歩を進める予定である。