2010年5月13日 ~東邦銀行支店巡礼⑰ 郡山支店・郡山中町支店・郡山大町支店・郡山駅前支店・郡山南支店(後半)~

しかし、先人が懸命の努力で開拓した美田も、郡山の発展に伴い、都市化の波に飲み込まれつつある。県道荒井郡山線が再び近づく辺りで新興住宅地となり、磐越西線の線路を踏切で渡る。踏切の先で、町名が喜久田町から富田町へと変わる。
先にも少し触れたが、私は、富田町を終点とする散歩を何度か決行している。再び記録にあたってみると、2008年9月27日、12月8日、12月19日、そして2009年3月13日の計4回。今だからタネを明かすと、この界隈にて療養していた親族を、見舞いに行っていたのだ。散歩に出掛けられずに悶々としていた親族に対して不謹慎極まりないと思うが、「今日はここを歩いた、あそこを歩いた」などと話すと、親族は喜んで聞いてくれたものだ。
その親族も昨年7月に療養を終え、今は元気に暮らしている。富田町を訪れるのはこの時以来のことだ。隘路ばかりの変哲ない住宅地であるが、私にとっては思い出深い土地であり、将来もそうあり続けることであろう。
そんな地域の一角に、百合ヶ丘団地というバス停がある。一見小さなバス停だが、郡山駅前へのバスが下富田経由とテニスコート経由の2系統出ており、しかもそれぞれの系統が1時間に1本以上の間隔で運行されている。富田町には磐越西線の新駅設置が検討されているが、もし実現したとしたら、バスはかなりの痛手を受けるかもしれない。百合ヶ丘団地から郡山駅前までの所要時間は25分前後、片道運賃は390円であるが、JRならいずれも半分以下になるはずだ。
だから郡山市には新駅設置を考えて欲しいなとは思うものの、一方で、先に述べた事情で百合ヶ丘団地を発着するどちらの系統のバスにも乗車したことがあり、思い入れが深かったりもする。今回は、下富田経由のバスのルートをたどりながら、郡山市中心部へと歩を進めたいと考えている。
1875年開校と意外に古い歴史を有する富田小学校の前を通過すると、沿道は雑然とした百合ヶ丘団地近辺とは異なり区画整理された住宅地となる。「県中都市計画事業富田第一土地区画整理事業」によって区画されたこの地域は、郡山市土地区画整理事業としては珍しく町名変更を伴ったことに特徴があり、大字の「富田町」がつかず「町東」「新屋敷(あらやしき)」などかつての小字名のみが採用されている。だから「郡山市町東」などと言われてもどの地域にあるのかわかりづらいデメリットを有するのだが、そうかと言って区画整理事業施行地全体を「富田(町)○丁目」などとするのも味気ない。
区画整理事業施行地を過ぎ、河川敷が緑地公園として整備されている逢瀬川を渡る。ほったらかし状態の福島市の八反田川や濁川などとは違い、郡山市は中小河川の水辺空間の整備が進んでいるように思う。国道4号線あさか野バイパスをアンダークロス、雑然とした住宅地を通過して逢瀬川の支流である亀田川を渡ると、並木(という町名)に入る。亀田川から先しばらく登り坂が続くのが、郡山らしい。
町名とは裏腹に街路樹どころか歩道すらないバス通りを更に進むと、内環状線に出る。4車線の基幹道路であり、さすがにここには街路樹がある。かつてはすずかけ通りと呼ばれていたから、プラタナスの木であろうか。沿道にはケバケバしいロードサイドショップが軒を連ねているが、目に優しい若葉が景観の中和剤になっている感じだ。
環状線を1キロほど南下し、さくら通り(県道河内(こうず)郡山線)との交差点を左折。こちらもまた、歩道に街路樹が立ち並んでいる。しかも電柱がなく、2車線の道だが狭さを感じさせない。
街路樹に見え隠れするかのように立ち並んでいる街灯には、「楽都郡山 東北のウィーン」と書かれた水色のフラッグが掲げられている。ここ数年の郡山市は、楽都のPRに余念がない。交差点から300メートルほど歩くと、その御本尊の一つであり全日本合唱コンクールにてなんと30年連続で金賞に輝く実績を有している安積黎明高校の前を通過する。
そのこと自体は非常に素晴らしいことだし、郡山市は楽都のPRをもっと積極的にしても良いと思う。が、「東北のウィーン」という表現は、今後ひょっとしたら逆アピールになってしまう可能性がある。というのも、今年に入ってから、当のウィーン少年合唱団において、厳しい戒律が敬遠されて志望者が激減している現状や指導者や年長の団員が年少の団員に対して性的虐待をしているという疑惑が日本でも報じられるなど、イメージが低下傾向にあるからだ。
そもそも「東北のウィーン」というキャッチフレーズは、凶悪事件が絶えなかったためかつてアル・カポネが権勢を振るったシカゴになぞらえて「東北のシカゴ」と蔑称されていたイメージを払拭したいという思いが発露となっている。が、考えてみると、シカゴだって全米有数のオーケストラであるシカゴ交響楽団を擁しているし、ブルースやジャズのメッカとしても名高い楽都なのである。
更にシカゴについてみていくと、郡山に大きく欠けているものが二つあることに気づく。市内にあるシカゴ大学は経済学や社会学などの分野でシカゴ学派と称される学者を多数輩出している(日本人の南部陽一郎など出身者でノーベル賞を受賞した人物がなんと82名にのぼるとか)し、現在の米国政界においてもバラク・オバマ大統領はシカゴが地盤、ヒラリー・クリントン国務長官はシカゴの出身である。郡山は、県庁所在地でないという事情はあるにせよ大学の充実度は高くないし、政治家に至っては総理大臣どころかただの一人の閣僚すら輩出していない(中核市規模の都市としては全国的にも珍しい事例かもしれない)。東北のシカゴと呼ばれたことをむしろ誇りに思い、見習おうとする逆転の発想が、ひょっとしたら求められるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると、郡山支店(200)の建物が近付いてきた。4月24日のローンプラザ福島支店(133)以来、19日ぶりの入金である。店内の片隅にあるATMにて、1,000円を入金。これで、我が口座の残高は30,000円となった。
郡山支店からさくら通り、駅前大通りと歩いていけば10分かかるかかからないかのうちに郡山駅に着くことができる。が、今回の散歩は実はここからが本番で、これから郡山中町(201)、郡山大町(202)、郡山駅前(203)、郡山南(204)と、中心街に散在している支店を訪れることになっている。すべての支店名に郡山の2文字がついているので、順番を覚えるのが若干面倒だ。「ナカマチ、オオマチ、エキマエ、ミナミ…」と呪文のようにブツクサ呟きながら、郡山支店近くにある交差点を渡って裏通りを南下し、はやま通り(主要地方道郡山湖南線)へと出る。
地下歩道で昭和通り(国道4号線)をアンダークロスし、奥州街道に面した郡山中町支店へ。1938年に建てられたという洋風建築で、文化財的価値も有する建物だ。
ここでも1,000円を入金すると、踵を返して奥州街道を北上。石畳舗装がきれいななかまち夢通りを通過し、駅前大通りとのスクランブル交差点を渡って、大町へと出る。明るい雰囲気のなかまち夢通りに比べると、大町は飲み屋が多いせいか、朝から昼前へと変わりつつある今の時間帯は静まり返っている。長らく廃墟のまま放置されているダイエー郡山店跡の存在も相俟って、ちょっと不気味なイメージだ。
郡山大町支店はダイエー跡の向かいにあった。郡山中町支店の名前に郡山が冠されているのは福島市の中町支店(105)との区別のためだろうが、郡山支店には区別の対象となる大町支店は存在しない。ただし、東邦銀行の本店(100)が、福島市大町に所在している。店内は、異様に狭かった。ATMも2台しかない。大町の環境を思えば、周辺他店への統合も近々あり得るかもしれない。
大町から日の出通りを歩き、郡山駅前へと出る。福島県一の高層ビル・ビッグアイが眼前に迫る。このビルの中にも支店か出張所があれば面白かったのだが、残念ながら開設予定はないようだ。
駅前広場に沿って南下し、駅前大通りを再び渡って2008年に閉店した丸井郡山店の跡を過ぎると、郡山駅前支店。ATMコーナーに入ると、男性の店員が「いらっしゃいませ」と挨拶する。東邦銀行のATMコーナーでは初めて目にする風景。多分、利用者の多い店舗なのだろう。あるいは、不正がないかどうかチェックしているのかもしれないが。
と、ここまでは矢継ぎ早に支店巡りがつづいていたが、次の郡山南支店は、郡山駅から1キロほど南に離れている。郡山駅前支店を出、まっすぐ南へと延びている貨物通りを歩く。中心街のはずなのに、商店は少なくマンションや一戸建ての住宅が目立つ。幅員こそ2車線確保され歩道きちんと備わっているが、風情は完全に裏通りだ。左手から近づいてきた東北本線の線路に沿って進み、奥州街道、次いで昭和通りを渡ると、ようやく郡山南支店に着く。
ここでもATMで1,000円を入金。これで5店舗を巡った訳だが、さすがに疲れた。時計を見ると、11時15分を過ぎている。今回もまた、5時間近くもの時間を歩き通すことになってしまった。
金融機関や生保・損保のビルが建ち並び郡山のウォール街の様相を呈している昭和通りを北上し、駅前大通りとの交差点を右折。高い天井が特徴的なアーケードの下を通り抜け、郡山駅に着いたのは11時32分のことであった。
福島方面への列車は、11時56分発。プラットホームに出ると、既に電車が停まっていた。適当な席に腰をかけ、ダラリとくつろぐ私。一度座ってしまうと立ち上がるのが非常に億劫だ。
そんな感じでボーっと待っていると、発車を知らせるメロディーが鳴り響く。首都圏でよく聞かれるありきたりのメロディーであった。これはいただけない。楽都を標榜するならば、オリジナリティー溢れるメロディーが欲しいところである。郡山在住のミュージシャン・GReeeeN辺りに頼んで、いい曲を提供してもらえないものだろうか。