2010年6月4日 ~東邦銀行支店巡礼⑳ 須賀川支店(後半)~

用を済ませ、そそくさと須賀川支店を辞す。こんな街、もう用はない。とっとと守山まで歩いてしまいたいと思った。まずは、主要地方道須賀川三春線を東へと進む。
須賀川の中心部は馬の背のような丘陵の上に位置しているので、おのずと下り坂となる。その途中に、翠ヶ丘公園がある。1989年に日本の都市公園100選にも選ばれた~ちなみに、福島県で唯一の事例だそうだ~というから、きちんと整備された公園なのであろう。が、入口付近に立ち並ぶ街路樹は総じて貧弱で、まるでキリタンポのような醜態をさらしている。中心部の街並みといい翠ヶ丘公園といい、須賀川市都市政策はどうにもチグハグさが目立つような気がする。
坂を下りた後は近郊の新興住宅地。4車線の立派な須賀川東部環状線を渡り、ロックタウン須賀川の前を通過すると、阿武隈川に架かる江持橋に差し掛かる。この辺りで、散歩開始から3時間が経過した。阿武隈川の橋については2008年の散歩でメインテーマとし河口に近い亘理大橋から本宮市の上ノ橋まで歩いて渡れる橋はすべて渡ってきた経緯があるのだが、郡山市以南の橋を渡るのは、2007年9月29日に渡った白河市の田町大橋以来のこととなる。この付近の阿武隈川は河口から100キロほど遡った地点かと思われるが、橋上から眺める流れはまだまだ大河の風格十分である。
橋を渡ると主要地方道はしばらくの間阿武隈川に沿って北西に進むが、1971年まで存在した江持小学校の跡地を過ぎると向きを真北に変え、眼前の丘陵を登るようになる。さほどの急坂ではないが、緩い坂が延々と続く。歩道はなく、場所によってはセンターラインすらない。交通量が少ないので何とか歩ける、といった感じだ。
が、沿道風景は、ある意味新鮮なものだった。斜面が多い環境にも関わらず、果樹園や畑として開かれた土地が意外に目立つのだ。特に果樹園の存在は意外だった。福島県で果樹栽培といえばまず信達地方が思い出されるが、須賀川市近辺も隠れた名産地なのかもしれない。
ここで再び郡山市に入る。今度は下り坂。気のせいかもしれないが、郡山市に入った途端に果樹園は消え失せ、田んぼが増え始めたように感じた。
そしてもう一つ、郡山市に入ってから気になることが。後、すなわち須賀川市中心部の方向から、雷鳴に似た音が鳴り響いているのである。確か今日の天気は少なくとも午前中は晴れ。午後ににわか雨が降る可能性はあるけれど、散歩のスケジュールには影響はないと踏んでいた。が、ここにきての雷鳴は、文字通り青天の霹靂。この辺りにはバスも走っていないだけに、雨が降り出す前に守山まで何とかたどり着くしかない。
が、その心配は、とりあえずは杞憂に終わる。下り坂が尽きると水郡線と谷田川を立て続けに渡り、あっさりと守山の町に入ってしまったからだ。
守山は、江戸時代には守山藩(ただし、この藩は水戸藩支藩であり、藩主も守山には住んでいなかった)が置かれ、1908年には町制が施行されるなど、田村郡南西部の中心として栄えていた地域である。現在でも郡山市田村町の中心として行政センターなどの施設が置かれているが、町並み自体は非常に小規模なもの。わずかに、道路に沿って短冊状に区画された家並みや家々の庭木の充実ぶりが、ここが古い町であることを物語っているに過ぎない。
磐城守山駅には、11時28分に着いた。4時間歩くつもりだったがわずかに届かず。待合室だけの簡素な無人駅。かつては行き違い設備があったようだがそれも撤去されて久しく、うらさびれた印象が残る。駅を発つ郡山方面への列車は12時20分発までない。散歩をスタートする時にはこの列車に間に合えばいいやと思っていたのだが、早く着き過ぎてしまった。雷鳴に急かされたせいもあるかもしれない。上空を見ると、朝には晴れていたはずなのに、今は黒い雲で覆われ始めている。
駅近くにある酒屋で買った菓子パンをビールで流し込みながら誰もいない待合室でのんびりしていると、堰を切ったように雨が降り出した。
 
そう言えば、磐城守山駅では、ちょっと面白い出来事があった。
先述の通り、この駅は無人駅である。自動券売機も存在しない。
では切符はどうすればいいのかというと、なんと、待合室に駅前にある個人商店で買ってくれとの張り紙が。指示に従い、件の店へ。
「ごめんください」扉を開け、店に入る。店番は不在で、白猫が一匹だけ佇んでいる。何度か声をかけると、やっと店番が出てきた。50歳ぐらいの男性だ。
「ここで水郡線の切符を買えますか?」駅にも張り紙があるし店内にも「水郡線切符販売所」の記載があったが、一応確認する。人よりは鉄道に乗った経験は多いと思うけれど、個人商店で切符を買うなんて初めての経験だからだ。
「はい、買えますよ」事務的に返事する男性。それを確認してから「それでは、東北本線桑折まで1枚お願いします」と注文を口にした。
ところがそこで男性、妙なことを口走る。「蒐集ですか?」
へ!? 蒐集なんてしませんよ。第一それが目的ならば、初乗り切符買いますもの… そう思いながらも「いえ、実際に乗ります」と返答する私。冷静に答えたつもりであったが、男性に多少の疑念を抱いたせいもあり、刺々しい口調だったかもしれない。
ここで再び事務的に戻った男性は、手元にあった駅名表で桑折までの運賃を確認し、私に切符を手渡した。個人商店で発行する切符だし手書きの硬券なぞ出てくるのかなと妙な期待を抱いたのだが、出てきた切符は自動券売機で売っているのと全く同じものであった。料金は、1,280円也。
切符購入についてはこんな感じだったのだが、待合室に戻った時、私は「しまった!」と思った。そこには水郡線の主要駅のみが書かれた運賃表も掲げられていたのだが、それによると、郡山までの運賃が230円だというではないか。
実は、郡山から桑折までの運賃が950円。何度も散歩に出掛けているから、これは頭に入っていた。つまり、郡山で途中下車して2枚の切符で桑折まで行けば、運賃は1,180円で済む。通しの切符を買うより100円も安いことを知り、愕然とする。
今更買い直しもできないだろうし、地団駄を踏む私。小手先の策を弄するのではなく通しの切符を買うのが正当な乗車方法であるのだぞと、自身に何度も言い聞かせる他はなかった。