2010年7月21日 ~東邦銀行支店巡礼(25) 安積支店・郡山卸町支店(後半)~

荒池公園の東端を掠めるなど緑も現れる風景が展開すると、いよいよ久々の、郡山市中心部である。
まず出迎えてくれるのは、文化通りとの交差点に建つ郡山市民文化センター福島県を代表するコンサートホールの一つで、特に商業系音楽の開催実績に関しては、県内他ホールの追随を許さない状況となっている。近年郡山市でアピールしている「楽都郡山」では安積黎明高校などの合唱部の実績が前面に出されがちであるけれども、市民文化センターのようなハードの整備や手を伸ばせば全国規模でで活躍するアーティストに触れることができる環境も、楽都の形成に一役も二役も買っていると感じる。
この市民文化センターもそうだが、郡山市立美術館やビッグアイなど、郡山市は自前で立派なハコモノを続々と建てているのが目に付く。財政的な懸念は指摘されようが、いずれも市のシンボル的な施設になっていることを考えると、前向きな姿勢は評価してよいと思う。ここでついつい愚痴が出てしまうのだが、福島市にはこういった姿勢が全くと言っていいほど感じられない。だから中心部が衰退する一方なのだと痛感する。
ついでに言えば、郡山市ハコモノへの執着は、近年に始まった話ではない。1924年の市制施行直後に建設された郡山市郡山公会堂や旧郡山市役所など瀟洒かつ文化財的価値を有する洋館風建築が現存しているほどだ。
市民文化センターからまっすぐ北上すると、そのうちの一つ、旧郡山市役所の前に出る。荘厳な玄関ポーチと塔屋に見とれる。これほどの建築物が80年以上も取り壊されずに残っているのを素直に嬉しく思うが、この背景には、この建物が福島県郡山合同庁舎という現役の役所として今なお活用されていることが挙げられる。従って、この建物の保存に腐心しているのは郡山市ではなく福島県ということになるのだが、そもそも郡山市のお古を福島県が利用していることに対して、福島県にはプライドがないのかと思わなくもない。
更に北上し、さくら通りを横切る。2ヶ月以上も前に訪れた郡山支店(200)の看板がチラリと見える。さくら通り以北のこの道路には、「平和通り」という名前がついている。このことは初めて知った。ただし、沿道は下町然とした変哲のない商店街であり、旭川市平和通買物公園広島市平和大通り、あるいは福島市の平和通りが市内におけるシンボリックな存在であるのとは著しく対照的だ。
町名が神明町から咲田へと変わると商店が尽きて住宅街となり、うねめ通り、次いで逢瀬川を渡る。そして、逢瀬川から300メートルほど北上すると、安積街道(県道荒井郡山線)に合流。磐越西線の線路に沿う形で延びているこの道路を通って、郡山卸町支店、そして喜久田駅まで歩き通すつもりだ。
この道路は、一昨年の12月8日に、郡山駅から郡山卸町支店付近を経由して富田町まで歩くのに利用したことがある。だから沿道の風景や路面状況はわかっているし足取りも軽くなるものかと思っていたのだが、実際には逆。これまで見知らぬ道を歩いてきたことに伴う好奇心や緊張感がきれいに抜け落ち、どうしようもない疲労感が襲ってきたのである。太陽が照りつける中長時間歩いてきたし、前夜の寝不足の影響もあろうかと思う。辛うじて眠気を催さなかったのが、唯一の僥倖ではあった。
これには困った。散歩を切り上げて郡山駅まで戻ろうかとも考えたが、喜久田駅から磐越西線の列車に乗りたいという思いで、モチベーションをなんとか維持する次第。ちなみに、喜久田駅では11時08分発の上り列車に乗車する予定を立てていた。奥羽大学のキャンパスの前を通過し、八山田の新興住宅地に差し掛かった辺りで時計を確認すると、10時を回ったところ。あと1時間で喜久田駅まで行かねば… これは心の支えというよりは身体に更なる鞭を打つ行為に繋がるものだろうか。
だから、沿道の状況なんて全然確認していなかった。強いて言えば、並行している磐越西線にはどうして駅がないのだろうと、恨み事を口ごもりながら線路を眺める始末。前回歩いた時も奥羽大学付近やヨークタウン郡山八山田付近に駅が欲しいなと思ったが、今日はより切実な形で熱望してしまう。そんな時に限って、私をせせら笑うかのように郡山行の列車が高速で通過する。駅があれば、あの列車に乗れたかもしれないのに! 沿道はロードサイドショップの集積もそれなりにあり、近年特に市街化が進んでいる地域。なのに郡山と喜久田の7.9キロも間に駅が全くないのは非常におかしいと思う。
こんな具合に気分的には辛く苦しい散歩となってしまったが、足取りは意外に早かったようで、10時半には、磐越西線の踏切を渡り、東北自動車道郡山インターチェンジ付近をアンダークロスして、郡山卸町支店が所在する喜久田町卸団地へと入っていた。実のところ、この間、あまり記憶が残っていない。火事場の馬鹿力でも発揮していたのだろうか。
トラックターミナルが目立ち殺風景な風景の中をしばらく歩くと、郡山卸町支店の建物がある。平屋だったか二階建てだったのか忘れたが、小ぢんまりとした佇まいだ。
店内に入る。冷房がギンギンになっているのに少し驚く。東邦銀行においてもクールビズの概念はあり営業時間中の店舗内の冷房は25度以上の設定となっているそうだが、体感温度は明らかに25度以下。まるで生鮮食品にでもなったかのような感覚だ。でもまあ、これまで暑い中を歩いてきた私にとってはまさにオアシス。ATMで入金するだけにとどまらず、10分、20分と涼んでいたい心境ではある。
が、のんびりしてもいられない。時計を見ると、10時38分。目標とする列車が喜久田駅に着くまであと30分しかない。できる限りの早足で、真北にある駅へと急いだ。
その甲斐あってか、卸団地やそのすぐ北にあるゴルフ練習場の脇を通り抜け、10時50分には喜久田駅周辺に展開する堀之内の集落に入ることができた。列車にも、恐らく間に合うであろう。
そう言えば、あの山はどのようになっているだろうか。気持ちに余裕ができた私はふと、守山で頂上だけ見ることができた安達太良山のことを思い出す。
安達太良山は、北の方角に、確かにあった。名山にふさわしく長く引いた裾を見せてはいたものの、何の因果か頂上だけが、スッポリと雲に覆われていた。その点は報われない感が残ったが、散歩のフィナーレに展開する安達太良山の姿は、疲労感を心地良いものに変えてくれるには十分なオーラを放っていた。