2010年10月5日 ~自宅に帰る⑤ 岳温泉から土湯温泉を経て福島駅まで(前半)~

私の大ポカが原因で、前回の散歩は、岳温泉での撤退を余儀なくされた。
という訳で、今回は汚名挽回の散歩となる訳だが、果たしてことがうまく運ぶのかどうかは、正直定かではない。本来ならば、今回の散歩は、土湯温泉から福島駅まで歩く予定であった。この区間にとどまるならば距離は約17キロであり私の脚なら3時間あれば歩き通せる距離なのだが、前回歩き損ねた岳温泉から土湯温泉までの約14キロを加えると、総歩行距離が30キロを超えてしまう。我が散歩における最長歩行時間は今年5月6日と13日に記録した4時間59分であるが、岳温泉から福島駅まで歩き通すとなると、これを大幅に更新してしまう可能性がある。だから、体力的に厳しそうであるならば、途中で切り上げてバスに乗ってしまうかもしれない。できることならば、それは避けたいことではあるが…
いつものように、桑折駅発5時41分の上り始発電車に乗車。福島駅で長時間停車している間に我が電車を追い抜いていく北斗星が遅れていた影響で、二本松駅には定刻から3分遅れの6時31分に到着した。
改札を出、駅前広場に降り立つ。二本松はちょうちん祭の真っ最中であり、駅前広場は山車で占拠されていた。従って、通常ならば駅前広場に乗り入れるバスは、迂回運転を余儀なくされている。バス停に掲げられた案内表示によると、岳温泉方面へのバスは、今の時間帯は駅の北西にある二本松郵便局前のバス停まで歩かねば乗れないとのこと。屋台が建ち並ぶ駅前通りを通り抜け、祭のメイン会場である二本松神社の前に出てから旧国道4号線を西進する。
5分ほど歩いて、二本松郵便局前のバス停に到着。時刻表を見ると、岳温泉へのバスは6時44分に通過するとのこと。しかも、そのわずか6分後の6時50分にも、岳温泉へのバスが通過するという。もっともタネを明かせば、前者は二本松市街の南西にある原瀬(原セとも表記)を経由し、後者は国道459号線を経由するのであるが、二本松のような小都市で大都市並みの間隔でバスが発着様子が見られるとは驚いた。
バスが来るまでの間まったりとしていると、中年男性が近づいてきた。
「あんた、バス待ってんの?」
「はい、そうです」
「祭りの期間中は、ここにはバスは通らないよ。昨日も1時まで山車がこの辺通ってたし、今日ももうすぐ山車が出るんじゃないかなあ?」
「え? 今の時間帯は郵便局前から乗って下さいって駅前のバス停に書いてあったんですが…」
先ほどから反対車線では初森、津島、東和小学校へのバスが相次いで通過していたので岳温泉へのバスも来るだろうとの確信は持っていたのだが、男性からの指摘を受けると、急に不安になった。先方も親切心で言っていることだし、もう少し先のバス停まで歩くことにする。
「次の二本松若宮のバス停まで歩いてみます。ありがとうございます」
「ちょっと遠いけど、そうした方がいいよ」
旧国道を3分ほど西進し、二本松若宮のバス停へ。着いた時には通過2分前。ギリギリの到着であった。
乗客は私一人であった。沿線は国道459号線沿いとさして変わり映えしない農村地帯で、どうしてそんな場所を経由してわざわざバスが走っているのか訳が分からなくなる。
が、しばらくすると、三中入口というバス停の前を通過する。車窓からは見えないのだが、付近に中学校があるらしい。これでようやく、このバスの存在意義がわかった。バス停名の由来となった二本松第三中学校は岳温泉を含む二本松市西部の広い範囲を学区としているから、おそらく通学用の路線なのであろう。だから、岳温泉から折り返す便には、それなりの利用客があるに違いない。
毘沙門堂で国道459号線に合流し、岳温泉には7時07分に到着。小用を済ませたので、散歩を開始したのは2分後の7時09分のことであった。従って、福島駅まで歩き通すとなると、到着は正午を確実に過ぎることになる。
土湯温泉へは国道を北上するのが最短経路だが、私がまず向かったのは、国道と直交している岳温泉のメインストリート・ヒマラヤ大通りの登り坂であった。せっかく温泉街に来たのだから、一番賑やかな場所は是非とも見ておきたい。
ヒマラヤ大通りは、その名前が示すように、温泉街にしては和風テイストが若干薄い感じがした。周辺は牧草地が広がっているし、西側にはスキー場や安達太良山の登山道があるから、山岳リゾートの拠点的な雰囲気を醸し出そうとした結果なのであろう。もっとも、昨年5月に老舗ホテルの安達屋が経営破綻するなど磐梯熱海同様に景気悪化の影響を受けつつあるようで、廃墟となった宿泊施設や商店も散見される。
そんな温泉街の変遷を坂の上から見守っている岳温泉神社の先で右折。住宅が尽き、牧草地が広がる中を歩くと、国道に合流する。7時を過ぎたばかりだが、クルマの通行量はそこそこある。歩道はないので、通過するたびに路肩に身を寄せる。クルマの側も私を見つけると、反対車線まではみ出して私を避けるように通過していく。ちょっと申し訳なく思う。
岳温泉の北側もまた、リゾート地としての開発が進んでいるようで、国道の沿道には瀟洒な外観のペンションや飲食店が点在している。また、沿道から東に多少外れた所には、かつてグリーンピア二本松と呼ばれていた保養施設・スカイピアあだたらという保養施設がある。
そのスカイピアあだたらとは逆方向、西側に聳える安達太良山方面を見ると、中腹に大きな建物が何棟か建っているのが見えた。あれ、こんな所にホテルなんかあったっけと疑問に思うが、しばらく歩くと国道沿いに立看板を発見。なんと、葛飾区、羽生市越谷市が運営する少年自然の家が固まって建っているのだそうだ。どうしてわざわざこんな場所に、と思うが、林間学校などを通じて都会と定期的な交流が保たれているのだと思うと、少し嬉しい気分になる。
更に北へと歩くと沿道から牧草地は消え失せ、雑木林の中へ。油井川沿いに数軒の宿が点在している塩沢温泉を通り過ぎると、いよいよ福島市との境界だ。標識を見つけると、自然にガッツポーズが出た。やっと福島市まで戻ってきた。あとはどこまで歩けるか。境界を通過してすぐ、右手の眺望が開ける。笹森山のアンテナ群が見下ろせる。この山の標高は650メートルほどで岳温泉より高い位置にあるはずだが、気がつかないうちにずいぶん登っていたらしい。
だからここからは延々と下り坂となるはずであったが、それを意識することのないまま、国道459号線と国道115号線との合流点に至ってしまう。合流点には、道の駅つちゆがある。まだ喉は渇いていなかったが、ここから先土湯温泉までは商店も人家もない所を歩くことになるから、ここで飲料補給。広々とした駐車場からは、吾妻連峰が見渡せた。頂上付近は、既に色づいている。あと一ヶ月もすれば、この辺りの木々も赤や黄色に染まるのであろう。
道の駅つちゆからは、国道115号線を歩くことになる。1995年に開催されたふくしま国体にあわせて開通した新しい道路であり、自動車専用道路のような様相を呈している。通過するクルマのスピードも、国道459号線より若干早めのようだ。ツーリング中のバイクも多い。スピード的には大したことはないのだろうが、車道の路肩寄りを爆音響かせて通り過ぎていくから、クルマよりも恐怖感を覚える。
こんな道を土湯まで耐えられるかなと心配になりかけるが、ここに救いの神が。「歩行者、自転車の方は旧道をお通り下さい」との立看板があるではないか。迷わず、そちらへと進む。
喜び勇んで突入した旧道であったが、率直に言って、路面状況は散々であった。ひび割れや崩落こそなかったものの、沿道の樹木が枝払いされていないため、眺望が全くきかないのだ。栗の木が多いのだろうか、イガグリがたくさん落ちていて、右に左によけながら進む。まるで、マリンスイーパを生で体験しているかのような感覚だ。
動物の糞も落ちていた。まだ新しいようで、ハエがたかっている。ひょっとして、落とし主は熊かなあ… 急に不安になり、歩くスピードが自然と早くなる。さすがにこの辺になると下り坂一辺倒なので、平地よりも早足だったと思う。後で考えると、いささか調子に乗りすぎたかもしれない。
旧道に入って1時間近く経った頃だろうか。ようやく前方の眺望が開け、国道115号線に合流。更にその先には、土湯温泉のホテルが何軒か見えている。ただし、温泉街の中心は国道から若干西側に離れた所にある。今回の散歩のほぼ中間にあたる地点でもあるし、ちょっと寄り道して訪れてみようかと思う。