2010年10月20日 ~新たなステージへ① 桑折町の自宅から国道4号線経由で白石まで~
先日、散歩のことで妻とこんな会話になった。
「こないだは福島から家まで戻ってきたけれど、今度は白石に北上するの?」
「そうだよ。で、仙台まで行く。それから…」
「それから?」
「仙台に本店がある金融機関の支店巡りでもしようかと思ってるんだ。」
「また通帳作って?マニアックなこと…」
実は、仙台を起点に東邦銀行以外の金融機関の支店巡礼をやってみようかと、検討中なのである。どこの金融機関にするかはもう決めてあり、散歩コースも検討を進めている。来月の中旬にはその金融機関の本店を訪れて口座を作成し、来年の梅雨明け前ぐらいまで宮城県内を重点的に歩く予定だ。
そんなバカバカしい目的を胸に秘め、今日はそのプロローグとして、桑折町の自宅から県境を越えて白石市中心部まで歩くことにする。ちなみに、次回及び次々回の散歩で、東北自動車道に沿うルートで白石市から村田町、そして仙台へと歩く予定を立てている。
午前4時に起床。ジャージに着替え、眠気覚ましのコーヒーをかっ込んでから、午前5時ジャストに自宅を出発。10月も下旬となると空はまだ暗い。夜明け前に散歩をスタートしたのはいつ以来だったかと振り返ってみるが、なかなか思い出せない。
まずは、奥州街道を北上。桑折町中心部の奥州街道は夜中だろうが未明だろうが街灯が点いているのだが、町北部の半田地区に入ると街灯そのものが存在しない箇所も多い。歩道もあまり整備されていないので、道路のどの辺りを歩けばいいのか迷う箇所もあったりする。
前方からクルマがやってくる。ヘッドライトが眩しくて目が順応できないので、クルマが通過するまで立ち止まってやり過ごす。ある住宅の前を通っていると、突然犬が「ワンワンワン!」と激しく吠えだすので、肝を冷やす。暗闇の中だと、どこに犬が潜んでいるのかもわからない。
こんな感じで、夜明け前の散歩は危険がいっぱい。慣れた道路でなければ、安易に歩くことはお勧めできない。「こんな所は歩きたくない」と無意識のうちに思っていたせいだろうか。30分も歩かないうちに国見町へと入ってしまった。予想よりも若干速いペースである。
主要地方道白石国見線を横断すると、国見町の中心・藤田地区。町の規模はさほど大きくはないが、奥州街道に沿って多数のお店がギュッと詰まっており、商店街らしさという点では少なくとも桑折町中心部より上ではないかと思われる。加えて、明日から三日間は町内にある鹿島神社の例大祭が行われるとのことで、商店街の軒先には紙垂のつけられた細縄が張り巡らされていた。
国見町もまた、桑折町に負けないぐらいイベントの多い町である。先月23日(9月23日の語呂合わせで「くにみの日」である)に開催された義経まつりでは先だって国見町内でロケが行われた映画「アブラクサスの祭」の主演俳優と女優がゲスト参加して盛り上がりを見せていたし、藤田駅に近い丘陵にある観月台文化センターは年間を通じて著名人を呼んでイベントを開催することで知られる。
大きな幟も掲げられ祭の準備万端といった雰囲気の鹿島神社を過ぎ、町の北端近くに位置する藤田小学校の前に差し掛かった辺りで、ようやく空が白んできた。ほどなくして、奥州街道は国道4号線と合流する。この先しばらく国道と街道とは重複しているが、国見町唯一の中学校である県北中学校の先で、再び分岐する。奥州街道の方は過去二度ほど歩いたことがあるので、今回は国道4号線をチョイス。
時計を見るとまだ6時。だが、さすがに我が国有数の国道だけあって、クルマの通行が絶えない。しかも大型車が多い。いずれも県境へと至る峠道を構なスピードで駆け抜けていくので、時折排気ガスを被ってしまう。ちょっと不愉快だ。
だから、遠方の景色に時折目をやって、気分転換する。右手に展開しているはずの信達平野は近くの木々に邪魔されてよく見えないけれど、左手を見ると、独立峰の厚樫山やその麓を取り巻くように坂を登っている東北本線や東北自動車道の様子がハッキリと確認できる。東北本線は毎朝通勤で利用するルートだが、遠方から改めてその姿を見ると、よくぞこんな所に線路を敷いたものだと感心してしまう。
この区間の東北本線は強風が吹くとすぐ運休するイメージがまとわりついており、実際つい最近まではそうなることが多かった。が、利用者の実感から言うと、2007年以降は運休するケースが激減しているように思う。JRもようやく重い腰を上げたのかと安堵する次第なのだが、あくまで噂話のレベルで耳にした話によると、この年に名取と仙台空港とを結ぶ仙台空港アクセス鉄道が開通したことが、どうやら影響しているらしい。この路線の開通によって名取~仙台間の東北本線の運行本数が1日100往復以上を誇る超過密区間となってしまったため、福島県内で起こったダイヤの些細な乱れが仙台近辺のダイヤにも大きく影響してしてしまうというのだ。だから、多少無理をしてでも列車を運行しているケースも、ひょっとしたらあるのかもしれない。あくまで安全運転でお願いしたいものであるが…
6時半には県境を通過し、白石市に入る。峠の鞍部を越えるとすぐに奥州街道の越河宿へと至る道が分岐するが、ここでも脇目を振らずに国道を行く。越河付近は小盆地となっており、右手には田んぼが広がっている。半数近くの田んぼでは、まだ稲刈りが済んでいないようだ。仙台近辺では9月中に稲刈りを終えるケースが多いから、かなりのんびりとしている。
のんびりといえば、そろそろ小中学生の通学時間帯に差し掛かるはずなのに、その姿を殆ど見かけない。自転車を走らせる男子中学生が一人いたかどうか。少子化の影響だろうか。だとしたら、少し淋しい。ただし、越河駅付近を過ぎて鯉の養殖地として知られる馬牛沼のほとりを通りかかった時、乗客を満載した白石市民バス・きゃっするくんとすれ違った。越河駅と馬牛沼の間には中学校があるので、そこの生徒が乗っていたのかもしれない。
そのきゃっするくんであるが、車両の後部に、白石城に拠っていた伊達政宗の重臣・片倉小十郎景綱のイラストが描かれている。しかも「戦国BASARA」風。カッコ良く描き過ぎなんじゃないかと思うが、ここは伊達藩領なのだと嫌が応にも認識させられる。
もし福島県民の視点から政宗や小十郎を描いたとしたら、多分悪役顔になるだろうな… そんなことを考えながら先を進んでいると、奥州街道の斎川宿への道との分岐点に差し掛かる。斎川宿付近の国道には歩道が全く整備されていない。だからここだけは街道を行こうかと思いかけたのだが、結局国道を歩くことにした。決め手になったのは、国道沿いに掲げられた距離表示の標識。実は、ちょうど斎川宿の辺りで、東京・日本橋の起点から300キロと区切りの良い数字になるのだ。これを拝んでみたかったのだ。
とは言うものの、国道を歩くのはやはりしんどかった。路肩のスペースはそれなりに確保されていたものの、雨水を排するために設けられたものなのか大抵の箇所で斜面となっており、歩きにくいことこの上ない。クルマの方はというと相変わらず大型車が多く、私の姿など見えていないかのようにすぐ脇を唸りを上げて通過していく。
この点でも、福島県との違いを感じる。前々回の散歩で国道115号線の歩道がない区間を歩いた際は、すれ違うクルマの大半はセンターラインの右側にはみ出すぐらいに私を避けて通過していたのだが、ここでは一切そんなことがないのだ。「センターラインと路肩の白線との間を走っていれば轢かないよ。だからあんたも路肩の外側を歩いて。」そう主張しているように聞こえる。確かにそれは間違いではないし合理的な一面はあるかもしれないけれど、冷淡でもある。
相次ぐカルチャーショックに打ちひしがれながらお目当てである300キロの標識を通過すると、ようやく歩道が復活。あとは、白石駅まで北上するのみである。県境を蔵王トンネルで通り抜けた東北新幹線、越河付近で国道の東側を通っていた東北自動車道を相次いでアンダークロスすると、白石の街まで続く奥州街道が分岐する。
分岐点付近の街道沿いは、近郊の住宅街。全国的な傾向に歩調を合わせるように白石市もまた人口の減少に悩まされていると聞いてはいるのだが、歩いてみるとアパートなど賃貸住宅、集合住宅の姿が意外に目立つ。この状況は故郷を離れてこの地域に住む必要のある人が一定数存在することの証左であり、工場や企業、行政の出先機関が集中する地域や大学の近辺でよく見られる。白石の場合、大学は所在しないし、行政の出先機関も宮城県南部では大河原町に集中しているため殆どないのが現状。となると、工場や企業の従業員が住んでいるのだろうか。考えてみれば、市街地の南東にある東北新幹線白石蔵王駅付近や、北東にある東北自動車道白石インターチェンジ付近には、大工場がいくつか見られる。
とは言うものの、白石の都市イメージは、やはり、工業都市ではなく片倉小十郎の城下町ということになるだろう。名産の温麺(うーめん)を供する店なども見られその面影を残している中心商店街の本町(もとまち)、中町は是非とも歩きたいところであるが、今後巡礼を検討している金融機関の支店の前を通ってしまう恐れがあるため、今回は回避。商店街の南端を東西に横切っている主要地方道白石丸森線との交差点を右折し、斬新なデザインが印象的な白石第二小学校の前を通って東北本線の脇へと出、白石駅方面へと進む。
この辺りもアパートが多いが、白石駅に近づくにつれて、徐々に商店が増えてくる。その一角に、東北労働金庫の白石支店がある。現在全国に13団体所在する労働金庫は、将来の経営統合を見据えているからか、店舗コード012の北海道労働金庫本店から店舗コード981の東海労働金庫熊野支店まで団体の垣根を越えて全店舗の店舗コードが一切重複していないのが特徴だ。金と暇があれば順打ちで全国行脚というのも面白いかもしれない。
ただし、これを実行に移すとなると、宮城県内だけでも、仙台にある東北労働金庫本店に始まって、塩釜→石巻→古川→気仙沼→大河原→長町→築館→仙台東→仙台北→白石→迫→多賀城→岩沼と、散在する各支店を東奔西走しながら巡らざるを得なくなる。さすがの私も、そこまでは付き合いきれない。
白石駅には、8時26分に到着した。帰りの上り電車の時刻を見ると、わずか7分後の8時33分発というのがある。早速、持参していた定期券で自動改札機をくぐる。言い忘れていたが、今後の散歩では、この定期券が必須アイテムになる。