2010年11月8日 ~新たなステージへ④ 久々の東邦銀行支店巡礼(32) 仙台卸町支店・仙台支店~

午前4時半に目が覚めた。
昨晩は日本シリーズ第7戦を深夜まで観ていたのに、よく起きられたものだ。桑折駅発5時41分の上り始発電車で散歩に出掛けていた癖が、まだ残っているようだ。もうその時刻に出掛けなくてもいいので、再度熟睡。二度寝による寝過しが心配だったが、午前5時半にはちゃんと起きられた。
今日の散歩は、前回の終点・館腰駅を起点に、仙台を目指す。久々に東邦銀行の店舗を訪れる計画を立てており、市内にある仙台卸町(708)、仙台(702)の両支店を制覇しようと考えている。
この計画は、9月2日の日記にも記したとおり、かなり以前から立てていたものではある。が、順打ち記録が途切れることへの抵抗は、率直に告白すると散歩当日の朝まで抱いていた。ローンプラザ須賀川支店(230)の次は白河支店(301)を訪れるべきなのではないか…と。が、銀行の店舗は新規出店や閉店が相次ぐのが常であり、お遍路や観音巡りのように巡礼先が未来永劫不変のものではない。店舗コードの順番にはこだわらず、より多くの店舗に足跡を残すべきだと思い直し、桑折駅発6時29分の下り始発列車に乗車した。
自宅を出た時、周囲は深い霧に包まれていた。こんな天候の時は電車も速度を落とすことが多いので散歩のスケジュールにも影響が及ばないかと心配したが、藤田を過ぎて県境の峠に挑む登り坂に差し掛かると、濃霧の上に出てしまう。上手く表現できないが、雲が地表近辺まで下りていて、福島盆地が雲海のようになっているのだ。面白い風景だ。東方に聳える霊山が、あたかもダイヤモンドヘッドのような雰囲気を醸し出している。
この濃霧、峠の向こう側の宮城県側では、全く見られなかった。不平等だなと思う。特に冬場になると、福島県側が雪でも宮城県側が晴れているなどといった天候の違いにしばしば出っくわす。松尾芭蕉は「おくのほそ道」にて「松島は笑ふが如く、象潟はうらむがごとし」との一文を残しているが、そう思わせた背景には、松島に限らず宮城県域が他の東北地方各県と比べて気候的な障壁が少ない点も挙げられるのではないかと考える。そしてそれは、古代の多賀城から現代の仙台市に至るまで東北地方における宮城県域の優位性を保つ源泉にもなっているはずだ。
そんなことを考えながら電車に揺られ、7時21分、館腰駅着。
さて、散歩のコースであるが、当初は東北本線の東側を縦貫している仙台バイパスを北上しようかと考えていたのだが、右手にイオンモール名取エアリのどでかい建物が見える可能性があるので、回避することにした。なぜなら、この建物の中で、山形県に本拠を置く荘内銀行のインストアブランチ・Q's Shop名取エアリ店が営業しているのである。
仙台都市圏における荘内銀行の進出は近年すさまじく、Q's Shopと銘打ったインストアブランチ7店舗を含め現時点で11店舗が出店している。これは、宮城県外に本拠を置く地銀、第二地銀の中では最多の数字である。もっとも、荘内銀行は昨年秋田県に本拠を置く北都銀行経営統合フィデアホールディングスなる持株会社仙台市に設立しているから、ある意味「宮城県の地銀」と言えるのかもしれない。
実は、この現状を踏まえ、「荘内銀行支店巡礼」をやってみようかなという考えも、頭の片隅にあったりする。仙台都市圏における店舗数こそ少ないが、荘内銀行の店舗網を確認すると、福島市郡山市にも支店があるし、それより何より、当散歩では未踏である山形県には多数の店舗を有している。福島県に戻る、あるいは山形県を訪れる口実というか足掛かりとして、荘内銀行を押さえておくのも面白いかなと思うのだ。
この他にも、岩手銀行が2005年に泉区泉中央、2007年に名取市美田園に店舗を新設しているし、つい先日、10月25日には、荘内銀行と同じく山形県に本拠を置くきらやか銀行が仙台地盤の仙台銀行と来年にも経営統合するニュースが報じられるなど、仙台都市圏における周辺各県の地銀、第二地銀の進出攻勢は近年すさまじいものがある。仙台都市圏の総人口は150万人を越えており福島県を除く東北地方各県の人口を上回っているから、マーケットとして有望な部分はあるのだと思う。
ただし、その中には、福島県に本拠を置く地銀、第二地銀の名前は出てこない。福島県のGDPは宮城県と肩を並べ他の東北地方各県と比べると2倍前後の数値を示しているから、差し当たっては県内をガッチリ固めることを優先しているのだろう。
話がかなり横道にそれてしまったので元に戻すと、館腰駅からは、東北本線の西側を通っている奥州街道を行くことにした。沿道は住宅が建て込んでおり、イオンモールが目に入る心配はない。
その代わりと言っては何だが、沿道に小学校がある関係で、登校中の小学生と頻繁にすれ違う。仙台都市圏の小学生は班登校ではなく、個別登校が基本。小学生の子を持つ親の立場としては、安全面で懸念を感じるスタイルだ。奥州街道は歩道がない個所もあるし、細かなカーブが多く見通しのきかない車道はクルマの通行も少なくない。なんとかならないものだろうか。
しばらく歩くと小学生の姿が消え失せ、多少離れた位置を走っていた東北本線が接近。奥州街道のルートに従えばここで踏切を渡って名取市中心部(旧増田宿)に出るのだが、ここでも天邪鬼ぶりを発揮し、線路の西側を北上することにする。これにもまた理由があって、奥州街道沿道にある仙台銀行名取支店の前を通りたくないのだ。七十七銀行と並んで地元に根を下ろし、仙台都市圏以南の宮城県内で46店舗を有する仙台銀行もまた、支店巡礼先の有力候補である。
そんな訳で、名取第一中学校の近くを通過し、増田川を渡って名取駅の西口へと出る。名取駅は仙台への通勤客が多い駅だが、付近にはサッポロビール仙台工場や仙台ニコンといった大工場が建っており、ここへと電車通勤する流れもあるようだ。
そのサッポロビールの工場敷地を過ぎ、県道名取村田線との交差点を右折する。少し歩くと、東北本線を跨ぐ陸橋が現れる。右を向くとイオンモールが目に入ってしまうかもしれないので、意識して左手ばかり見る。31階建ての高層ビル・たいはっくるをはじめとした長町のビル群や、八木山丘陵の斜面に展開する住宅群、大年寺山の頂上に聳え立つテレビ塔など、仙台市太白区を代表する景色が遠望できた。いよいよこれから仙台だぞとの思いが湧いてくる。
奥州街道を横切り仙台バイパスに出、北上。名取市北部から市境を経て太白区中田にかけての沿道は、ロードサイドショップが数多く展開している。気のせいだろうか、各店舗の敷地が他地域に比べて大きめのような気がする。通行するクルマの多さと見比べながら仙台バイパスの集客力に感じ入った次第だが、進出企業の構成を見ると、沿道の雰囲気をビッグパレットふくしま近辺の国道4号線にも似ている気がする。さすがにこの界隈にはビッグパレットのような大規模な展示場はないけれど、アズテックミュージアムという小規模な展示施設なら存在する。
そしてもう一点、この界隈には大きな共通点がある。それは、「郡山」の南側に位置していることだ。
といっても、今歩いている地域は名取川の対岸にある太白区郡山の南側という意味だが、そもそも郡山という地名は福島県郡山市の専売特許ではなく、南東北三県に限って見ても、白石市東根市南陽市二本松市(郡山台)、二本松市河東町、双葉町で見られる地名なのだ。いずれも古代の郡の行政施設である郡衙(ぐんが)の所在地と推察される場所であり、太白区郡山もまた、古代の官衙(かんが)跡と推定される遺跡が発掘されている。
その郡山を通過し、広瀬河畔通との交差点を過ぎると、広瀬川に架かる千代(せんだい)大橋を渡る。千代は伊達政宗青葉城を築く以前における仙台の旧称だが、君が代の「千代に八千代に」のフレーズとの連想で、雅称のような表記にも感じられる。
千代大橋の右手には、広瀬川越しに仙台市中心部のビル群が見渡せる。ここ数年で、20階建て以上の高層ビルがずいぶん増えた気がする。現時点での最高峰は、37階建て、180メートルの高さを誇り、今年オープンしたばかりの仙台トラストタワー。よりによって、私の母校の跡地に建てられている。ちょっと複雑な気持ちになる。
千代大橋を渡った先は、若林区である。区名は政宗が晩年を過ごした若林城に因み、城があった広瀬川北岸には若林、古城(ふるじろ)など、若林城にゆかりのある町名が所在する。
が、残念なことに、当の若林城は、現在宮城刑務所として利用されている。また、このことと直接的な関係があるのかどうかは不明だが、若林、古城界隈は仙台市中心部に近接していながらインフラの整備状況が良くなく、賃貸物件の賃料も周辺地域に比べて割安だったりする。
NIMBYについて言及するのもどうかと思うが、宮城刑務所をどこかに移転した上で、若林城址を公園として整備できないものだろうか。また、妄想を膨らませるならば、仙台駅を起点とし、新寺の寺町、木ノ下の陸奥国分寺若林城址、若林区役所、奥州街道沿いの荒町などを経由して仙台駅へと戻るるーぷる仙台ばりの循環観光バスが運行されると面白いと思うのだが。
そんなことを考えながら、仙台バイパスを北上する。若林から遠見塚にかけては一戸建てやアパートの多い住宅地だが、中倉、大和町といった界隈に入ると、急にマンションが増える。そしてそのすぐ北側は、東北地方最大の卸流通業務地区・卸町である。本日最初の目的地である仙台卸町支店もまた、この一角にある。
卸町の性格上と言うべきだろうか、この界隈には、地銀や第二地銀、信用金庫の支店が集中して出店している。ところがこれらの支店名を見ると、妙な傾向が伺える。岩手銀行山形銀行宮城第一信用金庫の各支店は若林区に所在しているのに支店名が宮城野支店であり、東邦銀行七十七銀行の各支店は宮城野区に所在しているのに支店名には若林区の町名である卸町が入るのである。もっともこれは行政区の境界の線引きに問題があるのであって各金融機関には責任はないのだが、少々ややこしい事態になっている。
仙台卸町支店は、5年後の開業を目指して工事が急ピッチで進む新寺通に面している。宮城野区所在とはいえ卸町とは近接しており悪くないロケーションだと思うのだが、雑居ビルの1階に店舗があるのには、少々驚いた。東邦銀行の店舗は行政施設や市場、病院内に併設されたものを除けば原則自前の建物で営業をしており、例外はエスタビルの1階にある福島駅前支店(118)ぐらいだと思っていたのだが、ここではその原則があっさり覆されていたからだ。東邦銀行は仙台では所詮外様なんだろうかと、肩を落とす。
ATMで1,000円を入金した後もしばらく新寺通を西進。宮城野貨物駅をオーバークロスしてから、星野新監督の就任でにわかに活気づくイーグルスの本拠地・Kスタ宮城の傍を通過。ちょうど秋季練習が行われている最中で時間に余裕があれば見物してもいいかなと思ったが、時計を見ると10時を過ぎていたので、やめにする。今日もまた午後から所用が入ってしまったため、正午過ぎには帰宅していなければならない。そのためには、仙台駅発11時04分の福島行快速列車に乗る必要がある。
Kスタ前からは宮城野大通を仙台駅東口まで進む。東口からは仙台駅東西地下自由通路に入り、仙石線改札、駅ビル・エスパルの地下街を横目にし、仙台市営地下鉄の仙台駅へと向かう。次の目的地である仙台支店は、地下鉄仙台駅の北端、さくら野百貨店脇の出口階段を登ってすぐの所にある。これらの区間の大半は人通りが多くさすがは100万都市の仙台だと思わせるものがあったが、さくら野百貨店脇の階段は全く人通りがなく、しかもホームレスの寝床などあったりして、不気味さを感じてしまった。
地上に出、少し歩くと、仙台支店に到着。仙台支店もまた、雑居ビルの1階にあった。ただし、こちらのビルは仙台東邦ビルという名前であり、東邦銀行の関連会社が所有しているものである。福島民報社の仙台支社もテナントとして入っており、福島県の匂いを感じる次第。仙台の街中でこのような感覚を味わえるとは、思ってもみなかった。