2010年11月12日 ~仙台銀行支店巡礼① 本店・黒松支店~

悶々とした夜を過ごし、日付が変わった午前0時過ぎに床に就いた。
当然起床は遅く、午前6時を回ったところで布団から這い出す。今日は、口座開設のため9時過ぎに銀行の窓口を訪れなければならないから、出発は遅くても良いのだ。子供達を学校へと送り出した後、7時40分過ぎに自宅を出発する。
桑折駅発7時53分の電車に乗車。まだ多少眠気が残っていたので車内でウトウトするのだが、この電車は仙台が終着ではなく松島まで行ってしまうので、寝過したら大変だ。目が覚めたらもう岩沼。再び眠りに落ちないよう車窓に目を凝らしながら、仙台までの道中を過ごす。
9時09分、仙台駅に到着。駅構内の郵便局に所用があったので、外に出たのは9時16分のことであった。
さて、これから口座開設だ。福島県民なのに宮城県の銀行に口座を作る… 別に犯罪行為でも何でもないのだが、果たして口座を開設してもらえるのかどうか、開設できたとしても行員から余計な突っ込みを食らわないか、少々気が重くなる。どうして口座を開設したいのか?との問いに対して、言い訳が頭の中を駆け巡る。「御行の支店巡礼をしたいんです!」などという本音は、さすがに口にするのは憚られる。
さて、その銀行であるが、候補としていた荘内、仙台両行のうち、優先順位は事前に決めていた。第一候補が仙台銀行で、第二候補が荘内銀行である。やはり地元の銀行だし、店舗数が適度に多い方が訪れ甲斐があるというものである。ただし、仙台銀行福島県には支店を有していないので、スンナリ口座を作成してくれるかどうかはわからない。万が一の備えとして、福島県にも支店を有する荘内銀行を、第二候補として入れておく次第である。
なお、口座開設を予定している店舗は、仙台銀行ならば本店、荘内銀行ならば仙台支店を予定している。いずれも仙台駅から真西へと延びている青葉通に面しているが、仙台銀行本店が一番町にあるのに対し、荘内銀行仙台支店は仙石線あおば通駅の近くにある。仙台駅から青葉通を直進すると仙台銀行本店に着く前に荘内銀行仙台支店の前を通過してしまうのでそれは避け、一本南を通っている南町通を西進し、一番町のアーケードを経由して仙台銀行本店まで歩くことにした。
果たして無事に口座を作れるのだろうか… 不安が前面に立ち周囲の風景もあまり目に入らないまま、仙台銀行本店へ。開店直後とはいえ、お客さんの姿が少ないのに驚かされる。それともう一つ気になる点が。
他行ならば当然ロビーにいるはずの、案内係の姿がないのだ。番号札を取る前に、口座開設の手続はどのようにしたらいいのか、案内係に訊ねたかったのであるが。閑古鳥が鳴いている店内だから案内係など置かなくても円滑な店舗運営ができるのかもしれないが、一見の客に過ぎない私からすると、いきなり肩すかしを食らわされた格好だ。結局、窓口にいた女性に質問し、口座開設の書類を貰わざるを得なかった。
書類に必要事項を記入し、本人確認書類の運転免許証と初回入金の1,000円札を添えて、窓口へ。応対してくれたのは、若い男性であった。書類一式を受け取ってからテキパキと業務をこなしている窓口氏を見て心配事は杞憂に終わるのかなと一旦は胸をなで下ろしたのだが、数分後に呼び出しを食らう。
「あの… ご住所が福島県になっているのですが、仙台にはちょくちょくいらっしゃるのですか?」
「仙台に勤務先がありますので、毎日訪れていますよ。」
窓口氏は一応納得したのか、業務へと戻った。やはり、宮城県外在住者の口座開設には、それなりの理由がなければならないようだ。
更に待つこと十数分で、ようやく口座が出来上がる。通帳を見て、ちょっと驚く。表紙のデザインが、17世紀半ばに描かれた現存する仙台城下町最古の地図「奥州仙台城絵図」になっているのである。なかなか洒落たデザインである。つい先日、山形県に本拠を置くきらやか銀行との経営統合を発表した仙台銀行であるが、通帳からは「我々は仙台の銀行であるぞ」との雄弁な主張を感じ取った。そして、主張ついでかどうかはわからないが、窓口氏から再び念押し。
「あの… 今後仙台に転居される予定などはありませんか?」
「今のところないですねえ…」あいまいな返事をしつつ、店を辞さざるを得なかった。
 
さて、いろいろあったが、仙台銀行の口座を無事開設することができたので、これから支店巡礼を始めたいと思う。
仙台銀行の店舗コードを確認すると、一番若い番号は先ほど訪れた本店(201)、次が泉区の黒松団地にある黒松支店(202)となっている。東邦銀行もそうであるが、他行であれば店舗コード順にたどれば本店の近辺にある支店をいくつか回ってから郊外へ脱出というパターンになることが多い。が、仙台銀行の場合は本店、黒松支店、国分町支店(203)、中央通支店(204)と繁華街の店舗が続く中で黒松支店が場違いのように挟まっており、一筋縄ではいかない状況になっている。
もっとも、黒松支店自体は、開設されてからかなりの年数を経ているようだ。ネットで調べたところによると、私が生まれる前年の1971年に、振興相互銀行黒松支店(当時の名称)で赤軍派による現金強奪事件が発生したことがあるそうだから。行内では老舗に属する店舗と言えよう。なお、強盗の被害に遭った銀行に訪れた経験はひょっとしたら過去にあったのかもしれないが、その事実を知った上で当の銀行を訪れる経験は、生涯初のこと。本店を訪れるのとは別の意味で、心臓が波打つ。
まずは、黒松へ。地下鉄東西線の工事が進む青葉通を渡り、一番町のアーケードに戻って北上。東北地方随一の集客力を誇る一番町であるが、まだ午前10時とあって、人通りはまばらである。ただし、広瀬通との交差点での信号を待っていた時に、福島交通の高速バスが交差点近くのバス停に続けざまに停まり、それぞれ10人以上の客を降ろしていた。しかも驚いたことに、福島交通のバスのすぐ後ろには羽後交通のバスが停車待ちをしている。東北地方における高速バス網はこの10年ほどで大きく発展した感があるが、それが仙台、とりわけバス停の所在する一番町へのストロー現象を誘発しているようにも思う。
定禅寺通との交差点でアーケードはおしまい。落葉間近のケヤキ並木が続く定禅寺通の中央分離帯を少し歩いてから、奥州街道へと入る。、黒松までは勾当台通から主要地方道仙台泉線を経由した方が若干近いのだが、沿道に上杉(かみすぎ・225)、台原(だいのはら・226)の両支店があるので、昨年9月30日に歩いたことがある奥州街道をチョイスせざるを得なかった。なお、上杉、台原両支店ともかつては德陽シティ銀行の店舗であり、同行が1997年に経営破たんした後仙台銀行が営業を引き継いだという経緯を有している。このような支店は、現時点で仙台都市圏に計13ヶ所存在する。
奥州街道の様子は、昨年と特段変わりなかった。ただ、青葉神社の手前の交差点付近にあったはずの旧家が取り壊されて、セブンイレブンになっていたのは残念だった。なお、この交差点を左折して300メートルほど進むと北山支店(219)があり、交差点から看板をチラリと見ることができる。
北仙台駅の西側にある仙山線の踏切を渡り、仙台城下町の北端・堤町を過ぎると、主要地方道仙台泉線に合流。昨年歩いた時は合流点から200メートル北に進んだ社会保険病院前バス停で散歩を切り上げたが、今日の目的地は更に北に位置する黒松なので、委細構わず先へと進む。
が、この仙台泉線。かつての奥州街道とほぼ同じルートを通っているはずなのに、幅員が異様に広く、往時の面影は全く見られない。道路自体は谷底を通っており、両側は丘陵。かつては青々とした風景が広がっていたのだろうが、現在は斜面全体が宅地である。
その象徴的存在が、31階建ての高層マンション・パークタワー台原だろうか。そう言えば、仙台城下町の南端に近い若林区河原町にも、ツインタワー広瀬川という二棟並んだ高層マンションがあったことを思い出す。藩政時代には堤町、河原町を含む城下町の境界に丁切根(ちょうぎんね)という木戸が設けられていたというが、現在はその代わりに高層マンションが建つ時代になったということか。
そんな主要地方道を2キロほど北上し、黒松南入口という名前の交差点を右折する。その名の通り、黒松団地への入口にあたるが、住所は青葉区北根黒松。急坂を200メートルほど登った後ようやく、泉区黒松へと入ることになる。ただし、青葉区泉区との境界を示す標識は道路上には掲げられていないので、泉区に入ったかどうかは街角に散在している住居表示板をつぶさに確認していく他はない。仙台市における行政区の境界を示す標識は主要道路においては徐々に設置されてはいるものの、生活道路においてはまだまだ不十分なのが現実だ。
ある程度予想していたことだが、黒松団地は、建設されてから年数を経たと思しき一戸建住宅や集合住宅が建ち並び、もはや新興とは呼べない住宅地であった。入居が始まったのが1962年のことというからそれも仕方ないが、その当時30歳だった人は現在78歳となっている訳で、住民の高齢化は急速かつ著しいものがあると推察される。事実、団地内を歩いている人の多くは、お年寄りが占めていたように思う。
黒松支店は、そんな住宅街の一角にあった。周辺の雰囲気は閑静そのものであり、かつて強盗事件があったとはとても信じられない。建物に入り、2台並んでいるATMの左側で、1,000円を入金。すると隣に人の気配。チラッと覗いてみると、70歳ぐらいのお爺さんであった。
先にも述べたように黒松支店の次は繁華街に逆戻りして国分町支店となる。しかし、出発時刻が遅かった上に本店での口座開設に30分近く要したため、時刻は既に11時。今日はここで散歩を切り上げ、黒松支店の至近にある地下鉄の黒松駅から帰途に就くことにする。
仙台の地下鉄には何十回となく乗車しているし17ヶ所ある駅の半数以上で乗降した経験があったと記憶しているのだが、黒松駅を利用した機会はなかったと思う。こういった駅を訪ね歩くのもまた、特に都市部を散歩する際の、楽しみの一つと言えるだろう。