2010年11月18日 ~仙台銀行支店巡礼② 国分町支店・中央通支店・荒町支店・原町支店(後半)~

このように、80年代以降の仙台市中心部は変貌著しいものがあるのだが、これに隣接しながらも下町情緒が色濃い街並みを今なお残しているのが、荒町である。地下鉄五橋駅の先、奥州街道(県道荒井荒町線)との交差点を左折すると、沿道には個人商店がズラリと展開。荒町もまた戦災の被害を受けなかった地域であり、しかも宮町のように街路の拡張も今のところ行われていないことも相俟って、何となく「昭和」を感じる風景である。
道路の拡張が行われていないといっても、メインストリートである奥州街道は、きちんと歩道も整備されているし、車道と歩道の間には自転車通行用の路側帯も設けられている。つまり現代社会への対応はある程度行っているのだが、その上で、脇道などが城下町時代そのままの区画を残しているのがまた嬉しい。荒町は、仙台駅東口一帯を南北に縦貫している東七番丁、東八番丁、東九番丁の南端に位置しており、これらとの交差点からはまっすぐに延びた各道路を拝むことができる。
また、あまり知られていないが、荒町には寺院も多い。しかも、新寺通のように表通りにズラズラ並んでいるのではなく、街道沿いには参道のみあり建物や墓地は商店街の後方にひっそりとたたずんでいるのがどことなく奥ゆかしい。これもまた城下町時代から変わらぬ区画なのだろうが、江戸時代の城下町における寺院は砦としての機能を負わされていたというから、あるいはこれらの寺院も、青葉城めざして奥州街道を北上する敵を撃退する目的で配置されたのかもしれない。
と、街並みをつぶさに観察しながら歩いていたら、東隣の南鍛冶町へと出てしまった。荒町支店は奥州街道に面していたはずだが、いつの間にか通り過ぎてしまったようだ。こんなポカをやらかしたのは、初めての経験だ。慌てて奥州街道を引き返す。
荒町支店は地図上では東九番丁との角近くにある仙台荒町郵便局の隣に書かれていたのだが、現地に戻ってみると、見逃してしまった理由が理解できた。店舗があるはずの所は新しいビルが建設工事真っ最中であり、現在の荒町支店はその裏側の、東九番丁に接したスペースに設けられているというのだ。こういった情報は銀行のサイトなどで小まめに確認しておかないといけないが、それを怠った結果時間をロスしてしまったという訳だ。
ATMで入金。これで残高が5,000円となった。とは言え先はまだまだ長い。次の目的地は原町支店。宮城野区役所の所在地でもある原町は、宮町、荒町と肩を並べる古くからの商店街。今日の散歩は、商店街訪問デーでもある訳だ。
仙台駅東口国道286号線とを結ぶ計画の都市計画道路宮沢根白石(ねのしろいし)線の工事の影響で家屋が立ち退き無残な状態を晒している南鍛冶町を通り過ぎると、三叉路が登場。奥州街道は右へと折れるが、私は左折する。この道路は、東北新幹線及び東北本線をアンダークロスした後仙台一高の脇を通り抜けて連坊小路、新寺通を横断して一気に榴岡まで抜けている。宮沢根白石線が未開通の現時点では、仙台駅東口から太白区へと抜ける最短ルートなのだが、連坊小路付近に一方通行の区間があるため太白区から仙台駅東口へはクルマの直通は不可能。城下町の名残を残す街並みが破壊されるのは忍びないが、宮沢根白石線がそれなりのメリットを有していることは認めざるを得ない。なお、この区間を通じての通り名は存在しないが、連坊小路から新寺通までについては長泉寺横町と呼ばれていた。1982年に新寺地区で住居表示整備事業が実施される以前は、確か新寺四丁目のバス停が長泉寺横町を名乗っていたはずである。
前々回の散歩で歩いた宮城野大通を横断し、榴岡公園の中へと入る。花見の名所で知られる公園だから今の時期は落ち葉が多く殺風景なのかなと想像していたのだが、園内の様子は良い方向に裏切られた感がある。とにかく人が多いのだ。ウォーキングに励むお年寄りやベンチで佇む中年女性、芝生でボール遊びに興じる幼稚園児に園内にある仙台市歴史民俗資料館の周囲を清掃活動している中学生… 人々の活気が、落ち葉を圧倒しているように思えた。
公園を出、宮城野中学校の脇を通り抜けて国道45線を渡ると、もう原町。商店街のメインストリートは国道の一本北側を並行している原町本通であり、原町支店もこの道路に面している。
原町は、仙台市東部の拠点として、同じく南部の拠点である長町とは長年ライバル関係にあった地域である。原町は石巻街道、長町は奥州街道の、いずれも宿場町を起源とし、明治時代には原町が宮城郡、長町が名取郡の郡役所所在地として機能。揃って1928年に仙台市編入された後は郵便局、警察署、社会保険事務所などの行政施設が原町と長町に設置~しかも施設の名称の多くが原町=仙台東、長町=仙台南となっている~され、1976年まで運行されていた市電も原町、長町双方まで延びていた。1989年に仙台市政令指定都市に指定された際も原町に宮城野区役所、長町に太白区役所が設けられライバル関係がさらに続くかと思われたが、ここ十数年は長町の副都心化が進む一方で、原町では特段再開発も行われなかったから、差が開いてしまったように感じられる。原町本通はその象徴的存在と言え、沿道もやや淋しい印象だ。
そんな一角を歩いていると、部屋探しをしている様子の不動産屋と新婚らしいカップルとの三人組が目に入る。人通りが少ないから、彼らは嫌でも目立つ。会話に耳を傾けてみると、
「この辺りは、ご覧のように地味な商店街ですが…」
などと不動産屋が話しているのが聞こえる。
最先端の流行を取り入れている店も歴史を感じさせる建物も殆どないから、確かにパッと見地味かもしれない。が、面白い点もある。その一例が、原町支店から100メートル離れた場所にあるスーパー・OK。首都圏地盤で安売りが自慢のスーパーであるが、どういう訳か離れ小島のごとく仙台市内にも3店舗展開しており、そのうちの一つが原町本通にあるのだ。駐車スペースも殆どなく他のスーパーならば撤退していてもおかしくなさそうなロケーション、しかも新聞広告以外はろくすっぽ宣伝も打たないのに営業を続けていられるのは、OK自体の資金力が豊富な背景もあるだろうが、他店に比べて魅力があり、原町以外の地域からもある程度顧客を集めているからと思われる。これは宮町や荒町にはない、原町ならではの個性ではないかと思うのだ。ついでに言うと、仙台市内にある3店舗のOKの所在地は、原町、長町、一番町。この配置もまた、原町が仙台市東部の拠点である(あるいはあった)証左と言えるだろう。
原町支店でもきっちり入金。約1キロにわたって続く原町本通の東端近くに位置する仙石線陸前原ノ町駅に着いたのは、10時28分のことであった。歩行時間こそ2時間半に満たない短さであったが、いろいろな街の様子を目にしたからか、ほど良い疲労感があった。