2010年12月26日 ~仙台銀行支店巡礼⑨ 北山支店・宮城町支店(後半)~

ところで、今「芋沢の範囲内」と書いてしまったのだが、その東端、国見や貝ヶ森や中山といった住宅地に境を接している一帯は、厳密には「かつて芋沢だった地域」である。1970年代から断続的に宅地開発が進められ、国見ヶ丘もそうであるが、吉成、吉成台、中山吉成、中山台、南吉成と、新しい地名に変えられてしまったからだ。特に、吉成という名が目立つ。元々吉成は芋沢の中の小字だったのだが、住宅地名として広い範囲で流通した感がある。当時の世相に鑑みると、「イモ欽トリオ」などの例に見られるように「芋(イモ)」は田舎とか垢抜けない事象の隠語としてしばしば利用されていたし、「吉成」は「良くなる」に通ずる縁起良さげな語感を有するから、致し方ない事象と言えなくもないだろう。
ただし、この界隈の積雪量を見ると、これまで歩いてきた地域に比べて明らかに多い。下手すると、10センチ前後は積もっているだろうか。見てくれは立派な住宅地になったけれど、仙台城下町とはなお相容れない気候面での壁を感じてしまう。
その住宅地の南端に位置する南吉成を歩く。旧宮城町が仙台市編入された後に開発された住宅地で、真新しい一戸建が多いのが特徴だ。庭先で雪遊びを楽しむ子供達を脇目に、先へと歩を進める。
南吉成の基幹道路は、国道48号線(仙台西道路)と接する青葉区折立と泉区中心部とを結ぶ仙台北環状線。ここの沿道にはロードサイドショップの集積が著しい。ヨークベニマルユニクロホーマックツルハドラッグなどが集中して出店している南吉成タウンプラザというショッピングスポットもある。幹線道路沿いにあるから南吉成界隈にとどまらず広範囲から集客があるのだろう。それにしても、宮城県外に本社がある店舗ばかりだなと思っていたら、仙台北環状線と直交する4車線道路の向かい側に、仙台に本社を置くオフィスベンダーやサトー商会の店舗があった。なお、南吉成のオフィスベンダーは、同社の本社・本店でもある。
しばらくその4車線道路を歩くが、東北自動車道が接近する直前で住宅地が途絶えて雑木林となり、道路もまた一気にセンターラインのない隘路と化してしまう。ここから約2キロはちょっとした峠越え。なお、峠の手前も先も、住所は芋沢になる。南吉成以上の積雪が待ち受けているものと推察される。沿道には、急勾配や急カーブ、あるいは熊に注意といった看板が点在している。さすがに今の時期には熊は出ないだろうが、不安を煽るのには十分なメッセージだ。そんなのに負けてられるか! 東北自動車道をオーバークロスする陸橋の上で、高見盛よろしく頬を叩き、気合を入れる。
陸橋を渡ると、早速登り坂にかかる。確かにそれなりに角度のある勾配だが、カーブはそれほどきつくなく、しかも除雪も行き届いていて若干拍子抜け。ただし、頭上を覆う木々の枝から雪の塊が間断なく落下しており、これが路上に薄く広がってスリップしやすい状況を作り出している。サミットまでの間に10回以上は滑ったろうか。転びたくないから歩幅も狭くなるし、その分歩く時間もかかってしまう。
沿道は終始雑木林であったが、時折学校林の看板を見かけた。学校名の中に、通町小学校と第一中学校というのがある。両者とも今回の散歩の前半で、学区内を通過した。行き当たりばったりで選んだコースであったが、前半と後半とでこういった繋がりを目にすると、歩き甲斐も増す。後で調べてみたら、第一中学校の学区内にあたる半子町及び今歩いている峠道は、どうやら芋沢街道に該当する道だったようだ。
雑木林の只中に活牛寺という寺院がポツンと建っている。ここがサミットで、あとは下り坂となる。登り以上に雪に足をとられてスリップすることが多くなる。ますます歩幅を小さくし、チョロチョロと歩きながらやり過ごしていくと、前方に盆地とも谷底とも表現可能な小さい平地が見えてくる。
ほどなくT字路に突き当たる。ここを左折し少し歩くと、国道457号線へと入る。一応国道4号線の西側、奥羽山脈の山懐にあたる一帯を白石から一関まで縦貫している国道ではあるが、元来六つの主要地方道であったのを強引に一本の国道として整備した経緯を有するため、地域によって整備状況にバラツキがあり、現時点では宮城県の南北軸としての機能をあまり果たしていない。
地図で見る限りでは芋沢界隈の国道457号線も道幅が細そうで整備が進んでいない「酷道」的イメージがあったのだが、いざ訪れてみると両側にきちんと歩道が整備されており、これまでの山道と比べると格段に歩きやすい道であった。また、時刻が10時台後半に入って雪が解けてしまったからだろうか。南吉成に比べると積雪量も半分程度のように感じた。
国道を南下していくと徐々に住宅が増え始め、主要地方道定義(じょうげ)仙台線と合流すると、前方に広瀬川が見えてくる。「青葉城恋歌」にも歌われた仙台を代表する川であるが、これまで仙台銀行支店巡礼の散歩に9回出かけているのに渡るのはまだ3回目。これまで訪れた支店が仙台市の東部及び北部に集中していたせいもあるが、今後の散歩ではもう少しこの川と関わる機会を持ちたいものだと思う。
大沢橋でその広瀬川を渡る。同時に芋沢との長い付き合いも、ここで終わりとなる。代わりに登場するのは、仙山線陸前落合駅周辺の住宅地。仙台の住宅地は総じて一戸建住宅の割合が高いのだが、ここは集合住宅が異常に多い。雪景色も相俟って、やはり集合住宅が多い札幌近郊にでも来たかのような錯覚を覚える。
陸前落合の宅地化が進んだのは、1980年代以降のことだったと記憶している。1983年に宮城広瀬高校が開校した頃から、一時期無人駅と化していた駅の利用者も急上昇を描いた。2004年には快速列車が停車するようになり、翌2005年には木造の小さな駅舎が立派な橋上駅舎へと建て替えられている。
宮城町支店もまた、そんな陸前落合駅の南口駅前広場の近く、国道457号線と旧国道48号線とが合流するT字路を左折したすぐ先にある。店舗の壁面を見てまず驚く。薄い緑色に塗られているのだ。これまで訪れた仙台銀行の店舗の壁面は白かクリーム色、あるいは建物の老朽化からかこれらがくすんだ感じのものが多く垢抜けない印象があったのだが、そうではない店舗もあったのかと嬉しく思う。金融機関に限らず、店舗において概観やデザインはやはり大切な事柄の一つだし、仙台銀行においてももっとこういった店舗が増えて欲しいと願う次第である。
ATMで1,000円を入金。これで通帳残高は20,000円に乗った。一ヶ月半でこのペースは、ちょっと早すぎるような気がする。
目的を遂げれば、あとは帰るだけ。次の訪問先である長町南支店(221)への便を考えればすぐそばの陸前落合駅か旧国道48号線を東進して一つ仙台駅寄りの葛岡駅まで歩けばよいのだが、私は逆に西進して旧宮城町の中心駅である愛子まで歩くことにした。旧宮城町内にある仙台銀行の店舗は宮城町支店しかないので、この機会を逃せば、愛子駅に立ち寄るチャンスはない。陸前落合と愛子の間は2.5キロほどだから、30分もあれば着けるだろう。
旧国道48号線であり、現国道457号線でもある道を進む。沿道には最近建てられたとおぼしき住宅や商店が建ち並び都市化が進む様子が見てとれたが、道路自体は旧態依然のままの2車線であり、歩道も側溝に蓋をして歩行スペースを設けただけものであった。この界隈の南側を通っている現・国道48号線の愛子バイパス沿道には土地区画整理事業で開発された栗生(くりう)という住宅地があるはずだが、この道路の沿道はスプロール性が強いような気がする。確か宮城町が仙台市編入される際にバーターとして愛子駅周辺に副都心的市街地を造成することが約束されたと記憶しているのだが、どうやら反故にされてしまったらしい。仙台市の態度はちょっと冷たいな、と思う。
いや、仙台市に限らず、地元の金融機関も、旧宮城町に対しては冷たいのではないかと思う。と言うのも、陸前落合駅から愛子駅にかけての範囲には仙台銀行杜の都信用金庫七十七銀行の店舗が出店しているのだが、そのいずれもが、店舗名が「宮城町支店」なのだ。3社揃って「お前の所は仙台市ではないぞ。宮城町なんだぞ。」と主張しているようであまり気分の良いものではない。宮城町が編入されてもう23年も経つのだから、改称が検討されてしかるべきではなかろうか。
そんな釈然としない思いを抱きつつ、11時17分、愛子駅に到着した。