2011年2月26日 ~とりあえず、自宅まで② 松島から利府まで~

私は、いわゆる「乗り鉄」の気があり、生活エリアである福島、宮城両県の鉄道路線の大半には、乗車経験がある。
中でも、運行本数が少ない只見線の乗車経験があるのは、ちょっとばかり胸を張っていいかもしれない。かれこれ20年近く前、学生時代の話になるのだが、青春18きっぷを片手に東北本線両毛線上越線を乗り継いで、新潟県側の起点である小出駅から会津若松駅まで乗った。当時は福島市金谷川に住んでいたから会津若松駅から小出駅を目指した方が乗車しやすいかと思いきや、さにあらず。そのルートだと日帰りが不可能であり、1回分の有効期間が1日限りの青春18きっぷを有効に使おうとすれば小出から乗るしか方法がなかったのだ。結果、只見線の乗車時間帯が夕方から夜間にかかってしまい、会津坂下駅から会津若松駅までは景色を満足に眺めることができなかった。従って、この区間は準未乗と言っていいかもしれない。
 
前置きが長くなってしまったが、実は岩切駅から利府駅へと延びている東北本線の枝線が、福島、宮城における数少ない未乗路線として残っていたりする。今日はこの路線に乗るために、松島駅から利府駅を目指そうかと考えている。両駅間の距離は11キロ程度。2時間あれば歩ききれそうであり我が散歩にとっては短めのコースとなるが、枝線に乗りたいという誘惑には勝てなかった。
いつものように、桑折駅発6時29分の下り始発電車に乗車し、仙台駅で乗り換えて8時10分に松島駅到着。まずはここから、松島町の行政上の中心地である高城の町を目指す。利府とは逆方向に歩くことになるが、これは予定通りの行動。
国道45号線、高城川と続けて渡ると、高城に入る。観光客がひしめく瑞巌寺(ずいがんじ)周辺とは対照的に、くたびれた雰囲気の古い商店が南北にわたって続いている。そんな活気のない商店街を少しでも明るくしようとの意図だろうか、電柱がオレンジ色に塗られている。ヨットのマストにも似て、非常に目立っている。欧米風の街並みを範とする傾向があるからか商店街のリニューアルに際して電柱は邪魔者扱いされ電線地下化などの対応をされることが多いのだが、そんな電柱を逆手にとって街並みのアクセントとする発想は、面白いと思う。
高城には、松島町役場の他、七十七銀行石巻商工信用組合の支店も進出している。かつては德陽シティ銀行も店舗を構えていたが、仙台銀行への営業譲渡にあたっては継承されなかった。ちょっと残念である。
商店街の北端まで歩いた後、踵を返して住宅地の中の裏道を南下する。仙石線の踏切を渡り、軽いアップダウンを経ると、磯崎漁港へと出る。松島湾で盛んに行われている牡蠣や海苔の養殖漁業の拠点となっている漁港であり、観光地・松島に近接しているため沿岸には観光客向けの海産物直売所が軒を連ねている。防波堤越しに、松島湾を眺める。昨年11月以降海に近い仙台近辺を歩いていたにも関わらず、直に海に接するのは初めての経験だ。
磯崎漁港に隣接して、壮観、一の坊といった、松島を代表する大型ホテルが建ち並んでいる。ここから南の海岸線は、完全に観光エリア。再び高城川を渡って国道45号線瑞巌寺方面へと進むが、沿道の大半は宿泊施設か土産物屋か飲食店かといった風景となる。
いや、もう一つ、目立つ施設がある。ミニ博物館の類が非常に多いのだ。一の坊の構内にある藤田喬平ガラス美術館を皮切りに、ベルギーオルゲールミュージアムやみちのく伊達政宗歴史館などが点在し、松島界隈は一種のミュージアムタウンの様相を呈しつつあるようだ。もっとも、その中核に位置する瑞巌寺も、本堂が国宝に指定されている他境内に宝物館を有するから、一種の博物館的性質を帯びている。
その瑞巌寺の門前を通過。右手には山門を中心に土産物屋が集中しており、逆に左手は観光遊覧船の船着場を中心とした公園、広場スペースとなっている。遊覧船がちょうど到着したところらしく、観光客が何人か桟橋から国道へと向かっていた。
船着場の前方には、1927年に開館しミュージアムタウン松島の先駆けともいえる施設であるマリンピア松島水族館の建物が見えている。施設の老朽化が進んでおり仙台港近辺への移転が検討されていたが、資金難により計画が暗礁に乗り上げているらしい。今後の行く末が不安である。
マリンピア松島水族館国道45号線を挟んで松島海岸駅の斜向かいに建っているのだが、ちょうどその地点から、背後の丘陵に向かって延びている道がある。県道赤沼松島線といい、松島側から見て三陸自動車道松島海岸インターチェンジ利府町方面への最短経路にもなっている。私もこの道へと分け入る。いきなりの急坂。ある程度登ってから背後を振り返ると、朝日を受けてキラキラと輝く松島湾が目に入った。
松島湾が見えなくなると分水嶺に差し掛かり、利府町へと入る。赤沼松島線に入ってから1キロちょっとしか歩いていないから、ちょっと味気ない。今度は延々と下り坂かなと思ったが、さほど歩かないうちに田んぼの中へと入ってしまう。前方には松島海岸インターチェンジ主要地方道仙台松島線が見えている。
利府駅方面に至るには仙台松島線を歩けば良いのだが、前回の散歩の時と同様に、三陸自動車道や仙台松島線と絡み合うように東北本線の線路跡となる細道が通っているので、そちらを歩いてみる。松島町内とは違って未舗装であり、しかも三陸自動車道で4車線化工事が進められている関係で工事車両が行き交う機会が多いのか、路面が容赦なく抉られている箇所も散見される。歴史に対するリスペクトが欠けているように感じる。
しばらく歩くと、線路跡は利府町管理のサイクリングロードへと変わる。一応舗装されているが、定期的に整備されている様子はない。人通りも全くなく、多少の不気味さを覚える。しかも、三陸自動車道と絡み合うように通っている関係上、一部区間は同道の下敷きになっている。ここでも4車線化の工事が進行中であり、同道をアンダークロスする箇所で通行止の標識を目にする。周囲に迂回路はなさそうだしどうしたものかと逡巡しかかるが、幸いにも工事現場の警備員が私に気付き、通行止の箇所を特別に通してくれた。散歩をしていると、時折こうした親切に触れることがある。非常にありがたいことである。
前方に利府中インターチェンジが見えてくる辺りから、丘陵が後方へと退き、田んぼや梨畑の中を歩くようになる。更に前方には来月の店名ブランド統一を目前として「JUSCO」から「AEON」と看板を掛け替えたイオン利府ショッピングセンターの建物が見える。利府駅はもうすぐだ。
農地一辺倒から宅地交じりの風景へと変わり、利府町中心部へと入る。その入口と呼んでもいい地点に、森郷児童遊園と称する公園があり、園内に蒸気機関車電気機関車が静態保存されている。旧線跡に設けられた公園なので昔日を偲んでこの地に置かれたものかと思っていたのだが、園内に掲げられた説明文を読むと、利府町内に新幹線総合車両センターが建設されたのを契機に寄贈されたものらしい。結局、旧線を歴史遺構として扱う姿勢は、利府町内においては全く見られることがなかった。
利府駅は、森郷児童遊園から数分歩いた先にあった。到着時刻は10時18分であった。駅舎はコミュニティセンターが併設されており、みどりの窓口や自動改札機も完備している。ただし、列車の運行本数は1日25本。朝晩を除いては1時間に1本の間隔であり、仙台都市圏では閑散線区に入る。
次の電車は10時35分発であり、駅舎内やホームでは沢山の客が列車を待っていた。100人近くはいただろうか。利府町の人口が増加傾向にあるだけに、もう少し列車を増発してくれるといいのに…と思った。
 
さて、念願叶って(?)利府枝線の客となった私。利府駅を発ってからは沿線風景が気になって仕方がなかったのだが、正直な印象を言えば、線路に並行して展開している新幹線総合車両センターの様子を延々と見せつけられるいささか退屈なものであった。「撮り鉄」であれば興味関心が湧くところであろうが、所詮私は「乗り鉄」。変化に富んだ風景が期待できなければ、食指が動かない体質の持ち主らしい。