2012年8月3日 ~青春18きっぷで小旅行 その5~

磯原駅を出た10両編成の列車は快走を続け、実にあっさりと福島県いわき市との境を通過する。列車自体のスペックにもよるところが大きいのだが、この県境自体に、それに相応しい重厚さが見られないのだ。
考えてみたら、福島県と周辺各県との境界は輸送量が低下し、列車の運行本数が減るのが常。東北本線だと栃木県境の豊原、白坂や宮城県境の貝田、越河と無人駅が連続しているのだが、常磐線沿線は市街地がほぼ切れ目なく続いており、せいぜい隣町に入ったような感覚である。いわき市民の中には福島県よりも茨城県の方に帰属意識を感じる方もいるそうだが、それもまた納得である。いわき市南部の中心駅の一つである湯本駅では野口雨情の作詞した「シャボン玉」が発車メロディーとして使われている。雨情が湯本に長期間滞在していたことに因む起用だそうだが、こういったエピソードもまた、いわき市茨城県との関わりの深さを想起させてくれる。
14時41分、いわき駅に到着。ここで磐越東線に乗り換えて郡山駅を目指す予定であるが次の列車は1時間後の15時41分発なので、本日4度目となる途中下車、そしてタウンウォッチングを堪能することにする。
改札を出ると、「東北観光博」をPRする幟が建ち並んでいた。茨城県の延長のような雰囲気のいわき市ではあるが、この幟だけが「いわき市は東北地方であるぞ!」と強烈にアピールしているように感じられた。
いわき駅の駅舎は、2007年に橋上駅舎にリニューアルされた。規模こそ福島駅や郡山駅に劣るが小奇麗な外観であり、周辺に集う客も多くいわき市の中心としてそれなりに機能しているように感じられた。
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駅舎のリニューアルと同時にオープンしたのが、下の写真に写っている再開発ビル・ラトブである。
この中にも入ってみた。キーテナントとして三越の小売売店が入居しており駅構内と同様にそこそこの賑わいを見せていた。
が、高校生とお年寄りが客層の大多数を占めているのが、少々気になった。高校生が多いのはラトブの4階に図書館が入居している影響かと思われるが、お年寄りが多いのはどういうことだろうか。改めて駅前広場に戻ると、ベンチをお年寄りが独占していたりする。高校生がいなければ完全にシルバータウンじゃないか。
この背景には、二つの理由が挙げられるだろう。まず一つは、福島第一原発事故に伴い原発周辺から多くの避難者がいわき市へと流入したことにより、高齢者人口が一時的に増加していること。もう一つは、そもそもいわき市には大学やホワイトカラーの勤めるオフィスといった青壮年層の受け皿に乏しいため、高齢化率も本年7月1日現在で25.8%に及んでいることである。ちなみに、同日現在の福島県内の主要都市における高齢化率は福島市が24.8%、郡山市が21.5%、白河市が23.3%、会津若松市が26.0%であるから、いわき市の高齢化率は高い部類に属していると言えよう。
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それでも、街並みを見て回ると、それなりに面白い兆候は見られた。国道6号線沿いには双葉町から避難してきた接骨院の方が「がんばる接骨院」なる新店舗を立ち上げていたし、一時的な事象にせよ避難者や原発作業員といった人たちを巻き込めば、街自体もある程度は盛り上がりそうな兆候はある。いわき市のトップには、積極的な対策を期待したいものである。
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何故か撮影してしまったラトブ裏にある飲み屋街。水戸の飲み屋街を撮影できなかった借りを、いわきで返した格好。
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15時10分過ぎにいわき駅へと戻ったら、磐越東線の列車は既にホームに入線しており、しかも乗車している客も少なくなかった。慌てて座席を確保する.。磐越東線の車両は常磐線とは打って変わってわずか2両編成だから、ちょっと焦ってしまう。結局、発車までに半分以上の座席が埋まることになった。
郡山駅方面へと向かう磐越東線の運行本数は、一日わずかに6往復。しかも、40.1キロも先にある小野新町駅までに停車する五つの駅はすべて無人駅である。夏井川沿いの山間を通るから致し方ない面はあるのだが、常磐線よりも数倍県境地帯っぽい雰囲気だ。それは、福島県といういささか広すぎる県における、浜通り中通りとの地域感覚の相違をも、象徴しているように感じられた。