2013年3月1日 ~一昨年の帰宅ルートを遡る③~

帰宅ルートを遡るシリーズも今回が最終回。前回の終点・岩沼駅から仙台駅までを一気に北上する計画だ。
桑折駅6時29分発の下り始発電車に乗って、岩沼駅7時17分着。長い跨線橋を右往左往し、2分後に西口の駅前広場へと出た。通勤時間帯に差し掛かっていることもあり、駅周辺は行き交う人が意外に多く、更に通学途中の小学生なんかもいて、ちょっとした賑わいを見せていた。
市内にある名取高校へと通う高校生の姿も目立つ。この高校の近くにある公園は、一昨年の徒歩帰宅の際にちょっとした思い出のあるスポット。仙台駅から歩き続けて3時間。喉が渇いたので園内で水でも飲めればと思いこの公園を訪れてみたものの、凍結防止のためとかで水道管自体が閉められており、天を仰いだ場所である。
幸い、公園のすぐ近くにある個人商店が開いており、ペットボトル入りの烏龍茶を買うことができた。普段の生活ではあまり見向きする機会がないこの手の個人商連ではあるが、組織が零細な分だけ緊急時には小回りが利き、できる範囲で迅速なサービスを提供していたように思う。
 
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しばらく進むと住宅地が尽き、田んぼの只中へ。行政区画も岩沼市から名取市へと変わる。
市境から1.5キロほど進むと、 周囲の景観にそぐわない4車線道路が登場。これは県道仙台館腰線。この道路は、ずっと4車線の幅員を保ったまま、仙台市南部まで続いている。歩道もきちんと確保されており、建物の倒壊が懸念された震災時においては、まさに貴重な避難経路であった。
県道を北上すると、沿道もやがて住宅地やロードサイドショップが建ち並ぶ風景へと変わる。震災の傷跡は一見残っていないように思われるが、津波の被害を大きく受けた名取市沿岸部の閖上(ゆりあげ)地区の住民が身を寄せる仮設住宅が建ち並んでいる一角もあり、胸を締め付ける。
 
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ロードサイドショップが密集する一角を通り過ぎると、東北新幹線の高架橋をアンダークロスする。ここを過ぎるとほどなくして仙台市へと入る。
この付近の東北新幹線は、震災直後は架線柱が何本も倒壊していて、早期の復旧は期待できない状況であった。その様子を目の当たりにし「やっぱり帰宅するのはやめようかな」と弱気になったことを思い出す。名取市は、仙台市中心部から約10キロ離れており、「行こか、戻ろか」の判断の分岐路とでも言うべき地域。歩を進めながらも、頭の中は逡巡しまくっていたような気がする。 
 
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仙台市太白区に入り、西中田、柳生(やなぎう)のロードサイドショップ街を通り過ぎると、名取川に架かる太白大橋が登場。ここもまた、橋脚とその取り付け道路との間が震災による地盤沈下で大きな段差となっていたのだが、とりあえずアスファルトで埋めて修正した様子。
前方には、仙台市南部のランドマーク的存在である大年寺山と、その頂上に聳え立つテレビ塔。この風景を眼にすると、ようやく仙台に入ったんだなぁ…との思いを強くする。
 
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仙台市太白区中心・長町地区に入り、ザ・モール仙台長町の前を通過。 震災直後は営業しているはずもなく周囲は閑散としていたが、今はまだ午前10時前だというのに、駐車場が既にある程度埋まっていたのに驚かされる。
仙台市の中でも活況を呈している部類に入る長町地区であるが、今現在はJR東北本線の東側に展開しているあすと長町の開発が著しい。昨年はゼビオアリーナがオープン、来年にはイケアが進出予定であり、ザ・モール長町に対抗する長町の商業核として存在感を強めている。
 
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ザ・モール仙台長町のすぐ北で国道286号線に入り、更に根岸町の交差点で広瀬河畔通(国道4号線)へと合流する。交差点の歩道橋から、広瀬川に架かる宮沢橋を撮影してみた。今は静かな佇まいだが、震災直後はこの辺りまで津波が遡上した模様で、潮の香りが微かに漂っていた。潮の香りと言えばマリンリゾートや漁港などの風景が思い浮かぶものだが、あの時は「こんな所であの臭いが…」と気味が悪くなったものだ。 
 
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その広瀬川愛宕大橋で渡河し、散歩もいよいよクライマックス。あとは愛宕上杉通を1キロほど歩くのみとなった。
この沿道で一番気になっていたスポットは、五橋のバス停。 震災時に沿道のビルから剥がれ落ちた壁面が待合所を直撃し、見るも無残な姿になっていたのが強烈に記憶に残っていたのだ。
待合所は何事もなかったように復元されており胸をなで下ろした次第だが、大津波原発事故のみならず都市型震災の恐ろしさについても、我々は語り継がなければならないだろうと痛感する。
 
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仙台駅に到着したのは10時37分。岩沼駅を出発してから3時間18分が経過していた。
ここまでの3回の散歩の時間を振り返ると、
 
第1回目(2月19日 自宅(桑折町)~北白川駅) 4時間41分
第2回目(2月23日 北白川駅 ~岩沼駅) 3時間36分
第3回目(3月1日 岩沼駅~仙台駅) 3時間18分
 
であり、3回の合算で11時間35分。震災直後の切羽詰まった状況がなせる業とは言え、我ながらよく歩いたものだと思う。
まさか同じルートを一気に歩き通す機会が今後も訪れることはないと願いたいものだが、万が一に備えて、相応の体力をつけておかねばならないな…とも思い直した次第である。
 
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